怪演で魅了の木村多江、転機の前触れは『白い巨塔』と『リング』貞子、世間との狭間で葛藤した日々を回顧

AI要約

木村多江はテレビや映画で活躍する俳優として存在している。様々な作品で異なる顔を見せ、コメディエンヌとしても才能を発揮している。

初めは舞台俳優として活動していた木村多江だが、映像の世界へのシフトに苦労し、テレビドラマに出演することで新たな楽しみを見つける。

1999年の連続ドラマ『リング~最終章~』と『らせん』で「山村貞子」を演じ、視聴者の話題をさらった木村多江は、次第に自信をつけていく。

怪演で魅了の木村多江、転機の前触れは『白い巨塔』と『リング』貞子、世間との狭間で葛藤した日々を回顧

 ふと気づいたら、木村多江はテレビや映画に欠かせない俳優として存在していた。映画では作品ごとに違った顔を見せ、テレビでは、ドラマはもちろんのこと、NHK教養番組ではナレーションやナビゲーターを務め、『LIFE~人生に捧げるコント~』などではコメディエンヌとしての才能を発揮。最新作のドラマ『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』では、小学6年生の息子を持つ、大阪の“お母ちゃん”を演じる彼女には、何度もCHANGEの瞬間が訪れたという──。【第2回/全5回】

 フリーランスの舞台俳優を経て、23歳で現在の事務所に所属した木村多江は、活動の場を映像の世界へとシフトしていく。テレビドラマや映画に出演し、順風満帆かと思われるのだが……。

「映像の世界にわたしは向いていない、と感じました。それまでやっていた舞台は、どんなに小さな役でも、お稽古から本番まで1か月以上ずっと一緒で、みんなで作り上げているという実感がありましたけど、映像は、(参加した当初は)自己紹介をしても名前を覚えてもらえず、テストを2、3回やったら本番。“はい、OK、お疲れさま”で終わりなんです。

 舞台は、たくさんお稽古したという安心感があったから、人前でお芝居ができたけど、映像は、なんというかとても刹那的で、不安しかありませんでした。演じることが楽しいなんて、とてもじゃないけど思えなくて」

 テレビドラマに出演することで、周囲の目が変わったことも不本意だった。

「それまでは“へぇ~、芝居やってるんだ”みたいな感じだったのが、“テレビに出てるの!? すごい、芸能人じゃん、女優さんじゃん”なんて言われて、すごくつらかったです。テレビに出たいから役者やっているわけじゃないし、仕事では結果を出せない。

 一般的には、バイトをしながらオーディションを受けて舞台に立っていたころを“下積み時代”と言い、テレビや映画に出演することを“成功”と呼ぶのでしょうけれど、わたしにとっては、自分で役を勝ち取って、たくさんお稽古をして舞台をやっていたころの方が楽しかった。でも、やっと映像で楽しさを感じられる役に出合うことができたんです」

 1999年の1月から放送された連続ドラマ『リング~最終章~』と『らせん』(フジテレビ系)は、大ヒットした映画『リング』のドラマ版で、木村は「山村貞子」を演じて、視聴者の話題をさらった。

「貞子というキャラクターを作っていく中で、わたしが好きなのは、作品や役のことをずっと考えている“本番までの時間”なのだと気づいたんです。それは、舞台であっても、テレビ、映画であっても同じなのだと。それから、役を演じることが少し楽しくなりました。だから、貞子はわたしのCHANGE1.5ですね」

──1.5? まだ2つめのCHANGEではない?

「まだです(笑)。 ’03年にテレビドラマ『白い巨塔』(フジテレビ系)で林田加奈子役を演じさせていただいたのですが、自分としては、どのシーンも“もっとこうすればよかった”“違う表現があったんじゃないか”と悔やむことばかりだったんですね。

 でも、幸い評判がとても良くて、撮影が終了した後にプロデューサーの方から“とてもよかった”とお手紙をいただいたりして、“自分では納得できていなくても、一緒に作った方たちや、見てくださった方が評価してくださるのなら、芝居にはいろいろ答えがあるのかな”と、少しだけ自信を持つことができました。そして、たまたまこのドラマをごらんになっていた橋口亮輔監督が映画『ぐるりのこと。』(2008年)にキャスティングしてくださったんです」

 この出合いが、木村多江の2つめのCHANGEにつながることになる。

木村多江(きむら・たえ)

1971年3月16日生まれ。東京都出身。学生時代から舞台に立ち、’96年にドラマデビュー。’08年公開の主演映画『ぐるりのこと。』で、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、ブルーリボン賞主演女優賞、高崎映画祭最優秀主演女優賞を受賞。主な出演作はNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』、『あなたの番です』(日本

テレビ)、『忍びの家 House of Ninjas』(Netflix)など。NHK Eテレ『木村多江の、いまさらですが…』ではMC、NHK BS『美の壺』ナレーションを担当。

工藤菊香