冠動脈と僧帽弁の病気は隣り合わせ…「虚血性心筋症」と「僧帽弁閉鎖不全症」~『ブラックペアン』監修ドクターが解説 vol.29~

AI要約

左冠動脈肺動脈起始症は赤ちゃんの時に見つかる先天性の病気で、非常に珍しい疾患だ。

肺動脈から血液が心臓の筋肉に流れるため、心臓の発育が妨げられる。

未治療の場合、1歳未満で多くの患者が亡くなるリスクが高い。成人になっても見つかるが、治療が難しく運動も制限される。

冠動脈と僧帽弁の病気は隣り合わせ…「虚血性心筋症」と「僧帽弁閉鎖不全症」~『ブラックペアン』監修ドクターが解説 vol.29~

二宮和也主演で6年ぶりに日曜劇場に帰還する『ブラックペアン シーズン2』。シーズン1に引き続き、医学監修を務めるのは山岸俊介氏だ。前作で好評を博したのが、ドラマにまつわる様々な疑問に答える人気コーナー「片っ端から、教えてやるよ。」。シーズン2の放送を記念し、山岸氏の解説を改めてお伝えしていきたい。今回はシーズン1で放送された9話の医学的解説についてお届けする。

※登場人物の表記やストーリーの概略、医療背景についてはシーズン1当時のものです。

■左冠動脈肺動脈起始症

私が所属する成人心臓血管外科の世界では、すごい珍しい病気が出てきました。これは本当にすごく珍しいです。というのもこの病気はほとんどが赤ちゃんの時に見つかる先天性の病気(生まれつき持っている病気)だからです。

私は小児心臓外科で研修を3年近く行ったのですが、この疾患に出会ったのは1回だけでした。ですので、小児循環器の世界でも珍しい病気です。

病名を分解して説明すると、左の冠動脈が普通は大動脈から出ている(起始している)のに、肺動脈から出てしまっている(起始している)という病気です。

肺動脈には全身から返ってきた静脈血(酸素を含まない血液)が全身→右心房→右心室→肺動脈と流れています。通常心臓の筋肉に血液を送るための冠動脈には大動脈から動脈血(酸素を含んだ血液)が流れていますので、筋肉に酸素が届き、筋肉は元気に動きます。

この病気の場合は、肺動脈から酸素を含まない血液(静脈血)が心臓の筋肉に流れますので、心臓の筋肉は元気に動いてくれません。生まれてからずっとそのような状態が続きますので、心臓の筋肉は成長もしてくれないのです。心臓の動きが悪くなり、未治療であると1歳未満で80%以上が亡くなってしまうというデータもあります。

つまり、この病気を持っている人で佐伯教授のように屈強な体つきの大人に成長することは非常に珍しいのです。心臓の筋肉が発達できないのに、全身の筋肉を鍛えることは非常に困難です。大人になって見つかる方も中にはいるのですが、非常にまれで、心臓の動きは高度に落ちてしまっていますし、運動も辛くてなかなかできません。