ヤバい事故物件、一括査定の罠…不動産鑑定士YouTuberが解説する基礎知識『悪魔の不動産鑑定』

AI要約

不動産鑑定士の仕事内容や不動産のトリビアについて解説した共著が注目を集めている。

不動産鑑定士は主にto Bの仕事を行い、不動産の適正な価格評価や鑑定評価書の提出などを行う。

本書には事故物件の影響、不動産の一括査定、苗字変更といった興味深いトピックが詳細に解説されている。

ヤバい事故物件、一括査定の罠…不動産鑑定士YouTuberが解説する基礎知識『悪魔の不動産鑑定』

不動産鑑定士の泰道征憲氏と登録者数70万超のYouTuberで同じく不動産鑑定士の中瀬桃太郎氏の共著『悪魔の不動産鑑定』(クロスメディア・パブリッシング)が反響を呼んでいる。同書では不動産鑑定士目線ならではの不動産売買や相続に関するトリビアをわかりやすく解説しているのだが、そもそも不動産鑑定士って何をしている人たちなのだろうか。

「不動産鑑定士ってto Cじゃなくてto Bの仕事なんですね。例えば資産運用会社であったり、銀行であったり、行政などからの仕事がメインになっているんです。弁護士さんやお医者さんは身近にいるからすごいんだなというのを感じやすいんですけど、そのせいか不動産鑑定士に対する世間の人の認識ってちょっと微妙ですよね」(中瀬氏)

不動産鑑定士といえば弁護士、公認会計士とならぶ文系三大資格なのだが、弁護士は現在約4万6千人、公認会計士は約3万5千人いるのに対して、不動産鑑定士はわずか8千600人しかいない。また、中瀬氏の言うとおり、一般の人が日常生活で関わる機会がほぼないということもあって、その仕事内容がなかなか想像できないのが実情だ。

「不動産の鑑定評価書を出すことがメインの仕事になります。鑑定評価書は安くても20万円ぐらいするので、たぶん個人が鑑定評価書を依頼する機会はないと思います。どういうときに鑑定評価書が必要になってくるかというと、例えば投資案件になっている不動産の適正な価格を出さなければいけない場合など。

簡単に言えばこの不動産の値段にはこういう根拠があるんだよということを、これでもかと説明するお仕事です。不動産会社さんなどでもよく査定書を出しますが、あれはエリアごとに機械的に出していることも少なくないです。なんでこの価格なのか説明を求められても『相場がこんなもんなんで』で終わることが多いと思いますが、鑑定書はその不動産ごとに裏付けがしっかりしているので説明を求められてもちゃんと答えることができるんです」(中瀬氏)

一般に鑑定士は独立すると鑑定書業務をするケースが多いが、現在泰道氏と中瀬氏は不動産売買と相続をメインに不動産業を手がけているという。本書に収録されているそんな彼らならではの「不動産にまつわる基礎知識」のいくつかを紹介する。

◆「事故物件がヤバすぎる」

《人の死に関する事案が起きた物件(事故物件)は、契約の判断に大きな影響を与える場合があるので、 不動産業者は買主・借主に事故の事実を告知する義務があります。(宅地建物取引業法第47条)

しかし、国土交通省のガイドラインでは事案によって告知義務が必要であるものとないものがあり、賃貸の場合、死が発覚してから概ね3年経てば告知義務がなくなります(売買の場合は期限の指定はなく告知必須)。ただし、何年経っても告知しなければいけないケースもあります。また、不動産業者は買主・借主に人の死に関する事案について聞かれた場合、答える義務があるので、事故物件かどうか気になる人は業者に聞くようにしましょう。》(『悪魔の不動産鑑定』より抜粋)

「告知と不動産業界の専門用語では言うんですけども、 不動産を購入するときに、『これ知ってたらこの金額で買っていなかったよ』というような意思決定に重要な事項は、購入するときに、必ずお伝えしなきゃいけないよねっていうのが、不動産の売買契約のルールです。でも、ここ5年前ぐらいまではこれをどこまで話すかっていうのは結構グレーだったんですね。曖昧なままずっとやってきたんですが、令和2年~令和3年にやっと国交省がガイドラインで明確にしてくれたというのが最近の流れです」(泰道氏)

「事故物件」といえば、「格安」なイメージだが、実際は事故物件であることで下がる不動産の価値は思ったよりも低い。人気エリアだと賃貸で5%~10%、売買で10%~20%程度の下落率で、不人気エリアでも賃貸20%、売買で30%程度だという。

「僕が告知したある物件には事故物件の部屋とそうでない部屋の2つがあって、5万5千円と6万円だったんですよ。でも、お客さんは『安いんだったらそっちを選びますわ』っていう感じでしたね。やっぱり人気エリアは多少賃料が下がれば、気にしないよって人も多いんでしょう。

実はここで出した下落率はエビデンスはあまりなくて、今での実務経験みたいなところで出しています。エリアによっても全然違いますし、評価のたびにヒアリングさせていただくのが一般的です」(泰道氏)

◆「不動産を一括査定してみた」

《不動産一括査定サイトを利用すると、簡単に複数の不動産業者から査定結果を入手でき、その結果、高い金額で売れると言われています。では、高い金額を提示してくる業者にお願いするのが正解なのでしょうか。結論は違います。多くの場合、一番高い金額では売れないからです。不動産一括査定サイトで査定した価格は、業者の買取価格ではないので、必ずしもその価格で売れるとは限りません。》(『悪魔の不動産鑑定』より抜粋)

「不動産業者は物件を預かることが大事なので、業界あるあるなのが、相場よりも明らかに高い査定書を出してその金額で預かって、徐々に値下げして売るというのが結構多いんです。これには2つデメリットがあります。1つ目が、売却期間が長引いてしまうこと。住宅ローンを組んでいたらその間に金利もかかりますし、管理費とか固定資産税が無駄にかかってしまう。

もう1つの一番大きいデメリットは、不動産は売り出し始めの時が一番閲覧数も多いし売れやすいのに変に高い金額で出してしまうと、何ヵ月か経ってから閲覧数が低い状態で値下げしても売れにくくなるというのがあります。だから弊社では、最初から相場通りの金額で売り出すことをお客様におすすめしています」(中瀬氏)

大手でも物件を預かるために相場より高い金額で査定書を提出する会社もあるそうだ。また、ポストによく入っている「このマンションの購入を希望しているお客様がいます」等のチラシにも要注意だという。

「ほぼウソですよね。営業トークです。業者が買い取るのではなく仲介する場合はお客さんがいないことが多いです。例えば、4000万円の相場マンションで『5000万円を上限に買いたい人がいます』という手紙が入っていたとして、売りたいって言ったら『別の物件でもう決まっちゃったんですよね』とか。内見には来たものの、それがサクラの場合もあるんです。それで『やっぱいいわ』と。結局相場通りで成約になることも多いです」(泰道氏)

◆「苗字変更した奴は金持ち」

《皆さんの身近で、結婚してないのにいきなり苗字が変わったという人がいたら、その人は資産家の家系かもしれません。 資産家一族が苗字を変える理由はズバリ、相続税対策です。相続税対策のために「養子縁組」をし、その過程で苗字が変わる場合があります》(『悪魔の不動産鑑定』より抜粋)

「弊社のお客様にもここ半年で2人ぐらいいます。契約3日前にいきなり『名前変えたんですけど大丈夫ですかね』と。でも、養子縁組をしても節税になるかはケースバイケース。その辺は税理士の先生に細かく確認しないと絶対に失敗します。 ただ養子縁組をすればいいってものではないですね」(泰道氏)

「イメージとしては相続税って累進課税でマックス55%とかなんですけど、相続人を増やすことでその税率を下げる目的でやる方が多い。ただ、極端な話、相続税がそもそも元々5%とかの人が養子縁組してもそれ以上下がらないので意味がない場合もあります。実際に苗字を変えた人たちは全員ちゃんと税理士に相談してるのかなと思います。どういった場合に本当に節税になるのかは我々も簡単に計算できるものではないので」(中瀬氏)

これ以外にも「お墓の隣に住んでみた」「戸建てとマンションどっちがいいの?」「不動産の囲い込みがヤバすぎる」等々、気になるけどなかなか聞けない不動産のトピックが本書には42項目解説されており、動画へ飛ぶためのQRコードも掲載されている。だが、あくまでこれらは基本的な知識なのだそうだ。

「これを読むことによって必要最低限の知識をつけて、よくある不動産会社が使う手法に騙されないように、っていうところをメインには考えております。ただ、『こういう場合どうなんだろう』とか、『私、前にこういう経験したんだけど』とか、新しく気になることも出てくると思うんですよね。そういうところに関しては、弊社に連絡いただければ(笑)」(中瀬氏)

賃貸にせよ売買にせよ、知っているのと知らないのとではふだんの生活がガラリと変わってくる不動産知識。知っておいて損はないだろう。

『悪魔の不動産鑑定』(泰道征憲、中瀬桃太郎・著/クロスメディア・パブリッシング)