Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」は何が問題だったのか? 映画で「奴隷制」を理解する(文/北島純)

AI要約

Mrs. GREEN APPLEのミュージックビデオ「コロンブス」が奴隷制に関連する批判を浴びてお蔵入りになった背景を紹介。奴隷制を取り上げた映画作品を紹介する。

映画『ルーツ』や『マンディンゴ』、『ジャンゴ 繋がれざる者』など奴隷制を扱った作品が紹介される。

さらに、スピルバーグ監督の『アミスタッド』やマックイーン監督の『それでも夜は明ける』など奴隷問題に真正面から取り組んだ作品も紹介される。

Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」は何が問題だったのか? 映画で「奴隷制」を理解する(文/北島純)

 Mrs. GREEN APPLEのミュージックビデオ(MV)「コロンブス」が公開直後にお蔵入りになった。大森元貴ら3人のメンバーがコロンブス、ナポレオン、ベートーベンに仮装し、カリブ海を思わせる洋上の小島で類人猿とパーティーをするという内容だが、猿に人力車を引かせるシーンなどが「植民地支配」や「奴隷制」を想起させるという批判を浴びた。なぜ「奴隷制」が問題となるのか。ここでは「奴隷制」を取り上げた映画を紹介しよう。

 なんといっても定番は「ルーツ」だ。1977年公開時に全米で大ヒットしたテレビドラマ(全米視聴率歴代3位)で、日本でも放映されるや大反響を呼び「ルーツ=起源」という言葉を定着させた。主人公はアフリカ西部マンディンカ族の若者クンタ・キンテ。原作者アレックス・ヘイリーの祖先だ。18世紀後半、奴隷商人によって英領植民地バージニアのプランテーション(大規模農園)に売り飛ばされたクンタ・キンテは逃亡に失敗、足先を切り落とされるがマンディンカの戦士として誇りを失わない。その娘キジーと孫のチキン・ジョージら一族のサーガ(年代記)を描いた不朽の名作で、9時間46分の長尺だが、休日に一気に見たい(BD版がオススメ)。

 当時の黒人奴隷は人として扱われずモノ扱い。何をしようが所有者の自由とされ、凄惨な虐待を受けてもいた。そうした実態を描いた映画として衝撃を与えたのが、「ミクロの決死圏」や「トラ・トラ・トラ!」で有名なリチャード・フライシャー監督の映画「マンディンゴ」(1975年)。ルイジアナの農場が舞台だが、屈強なマンディンゴを商品として「繁殖」させる「奴隷牧場」が実態で、おぞましい非人道的な描写が続く。クエンティン・タランティーノ監督が2012年の映画「ジャンゴ 繋がれざる者」でオマージュを捧げたことで再評価された。「ジャンゴ」は黒人奴隷(ジェイミー・フォックス)が賞金稼ぎとなって妻を奪還する傑作映画で、タランティーノはアカデミー賞脚本賞、共演のクリストフ・ヴァルツが助演男優賞を獲得した。

■スピルバーグ監督が真正面から向き合った「アミスタッド」

 奴隷問題に正面から向き合った映画といえば、スピルバーグ監督の「アミスタッド」(1997年)も忘れられない。奴隷貿易のスペイン船で反乱を起こしたジャイモン・フンスーが刑事裁判にかけられるが、南北戦争前夜の国際政治に翻弄される。最高裁で被告人の弁護を行うのがアンソニー・ホプキンス演じる元大統領。ダメ親父かなと思いきや、独立宣言を引用して格調高く自由の尊さを訴える演説シーンは心を揺さぶる。

 スティーブ・マックイーン監督の「それでも夜は明ける」(2013年)も必見だ。自由黒人(奴隷の身分から解放された自由人とその子孫)にもかかわらず奴隷商人に拉致された音楽家の12年にわたる奴隷生活を描く。キウェテル・イジョフォーら俳優の演技、美しい映像、ハンス・ジマーの音楽、すべてが超絶にエモく、アカデミー賞作品賞を受賞。女性奴隷を演じたルピタ・ニョンゴも助演女優賞を獲得、これでブレークした。

 奴隷はギリシャ・ローマの時代から存在している。しかしコロンブスの航海に端を発する南北アメリカ大陸の奴隷制は今に至るさまざまな問題(人種差別や南北問題等)の要因になっている。特に北米の綿花農園での奴隷制は、アメリカ・欧州・アフリカ間の「三角貿易」の根幹を形成し、莫大な利益を大英帝国にもたらして資本主義が勃興する原資蓄積の基盤となった。古い話のようでいて現代の資本主義社会に直結する問題なのだ。

 カリブ海に浮かぶ仏領マルティニク島が生んだ詩人エメ・セゼールは「ヒトラーの蛮行(ホロコースト)と同じことを、白人は植民地でとっくのとうにやっていた」と指摘し「植民地化が植民地支配者をいかに非文明化・野獣化・堕落させたか」を問うている。そのマルティニク島を「発見」したのがコロンブス、マルティニク島で生まれ育った没落貴族の娘ジョセフィーヌを妻としたのがナポレオン、皇帝に即位して欧州中に戦火を広げたナポレオンに失望したのがベートーベンだ。猿たちの敬礼シーンもあるMV「コロンブス」、投げかけている問いは重い。

▽北島純(きたじま・じゅん) 映画評論家。社会構想大学院大学教授。東京大学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹を兼務。