akakilike『希望の家』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】

AI要約

akakilikeの公演『希望の家』のチラシについて、倉田翠さんと加藤賢策さんのインタビューからその制作過程やコンセプトが明らかになった。

倉田翠さんが「わからないこと」をテーマに作品を制作し、男女や新興宗教といった要素を取り入れた写真撮影を通じてチラシのデザインに反映させた。

加藤賢策さんはタイトルの「家」や写真に何も載せない空白のデザインを選択し、観る側の想像力を刺激するよう配慮した。

akakilike『希望の家』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】

チラシとは観客が最初に目にする、その舞台への招待状のようなもの。小劇場から宝塚、2.5次元まで、幅広く演劇を見続けてきたフリーアナウンサーの中井美穂さんが気になるチラシを選び、それを生み出したアーティストやクリエイターへのインタビューを通じて、チラシと演劇との関係性を探ります。(ぴあアプリ・Web「中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界」より転載)

男女が写るビジュアルのちょうど真ん中に真っ白の図形が配置されたakakilike『希望の家』のチラシ。見えるはずのものが見えないビジュアルにハッとさせられます。ふたりはどんな顔で、どんな表情なのか。この白い図形は何を意味しているのか。塗りつぶされているのか、空洞なのか……。いろんなことを考えてしまうこのチラシと作品について、akakilikeの主宰であり演出・構成を務める倉田翠さんと、デザイナーのLABORATORIES加藤賢策さんにお話を伺いました。

中井 倉田さんと加藤さん、おふたりの出会いは?

倉田 最初は※「『今ここから、あなたのことが見える/見えない』[YAU]」(2022年5月)/「『今ここから、あなたのことが見える/見えない』大丸有SDGs ACT5」(2022年11月)という公演です。bench(ベンチ)というアートマネージャーのコレクティブチームに依頼されて、私は演出家として参加する仕事で。ベンチさんが選んだデザイナーさんが加藤さんで、それまで私は存じ上げなくて。イメージだけを伝えたら、私がやりたいことをすごくうまく、いやらしくならないバランスで作ってくださったんですよ。

※『今ここから、あなたのことが見える/見えない』:大手町・丸の内・有楽町エリアで働く人たちとのワークショップを経てつくりあげたパフォーマンス。2022年5月にワークショップの成果発表公演、その公演をホールバージョンとして同年11月、東京国際フォーラムで再演した。

中井 印象的なチラシですね。

加藤 このとき(~YAU)は稽古中にカメラマンを連れて撮りに行った写真をあとで受け取って使っています。

倉田 (~大丸有SDGs ACT5のチラシ上部に写っているのは)実際に会社で部長さんをされている方なんですが、制作時に企業に潜入してインタビューをしたなかのおひとりで、ものすごい魅力を感じて。ぜひ出ていただきたいと思ってこの方は私がスカウトしたんです。~[YAU]のときは、部長が歩いているところという感じのこの写真が好きで、これを使いたいとだけ言って何枚かお送りして、加藤さんと直接話してはいないんですよね。次もベンチさんの公演で『指揮者が出てきたら拍手をしてください』。これは撮り下ろしです。で、今回akakilikeの公演で、初めて私から依頼させていただいて。

中井 『希望の家』。

倉田 私は自分が「わからないこと」をテーマに作品を作ったりするんです。今回は結婚とか、新しく家族を形成していくこと。それをまずはテーマにして、まだいろいろ定まらない中で、私のパートナー役に設定している俳優さんと、京都の山奥の池まで撮影しに行きました。カメラマンは守屋友樹さんという、ある種の気持ち悪さも感じるような写真を撮る方で。

中井 どんなコンセプトで撮影を?

倉田 「希望」って、その単語を出した瞬間に反対のこともイメージされる言葉だと思っていて。裏が見えちゃう言葉というか。そんな話をしながら撮影してみました。別に男女っぽい動きはしていないんですよ。めっちゃ相手を見ているとか、相手をモノとして扱っているだけの写真なんですけど、それができあがってきたらすごく生々しくて。

中井 たしかに、生々しいです。

倉田 で、セレクトした写真をどんと送って、「これが100点やと思ってないで」と加藤さんに伝えたんです。池と男女って、なんかいかにも「失楽園」みたいじゃないですか。でもそうしたいわけじゃない。あともうひとつ、新興宗教みたいにしたいというイメージも伝えました。このままこの写真をストレートに使うと少しずれる気がする、と。私、作品で男女を扱うのは苦手なんです。安易に触れることができない。だからそこをぼやかしたい、というようなことをイメージでお伝えしたら、できあがってきたのがこのチラシで。すぐにいいなと思いました。

加藤 最初はいくつか案を出しました。後光が差しているように放射状に線が入っているものとか、色のついた図形を載せているものとか。

倉田 写真がずれているものとかいろいろあったんですが、控えめなものにしました。何もないから、そこの中を想像する。観る側の想像によって補填されるなにかは、このデザインがいちばん強い気がして。

中井 そうですね。この空白の形自体、タイトルの「家」から、家を表しているのかなとか、矢印とか鉛筆も想像するし。写真に何かを載せてしまうというのは、最初から思いついていたんですか?

加藤 そうですね。倉田さんのイメージを最初に聞いた時、「『希望の家』というタイトルつけるなんて、宗教にハマっちゃったのかなと思われたらちょっと嫌」と言われて。

倉田 そう、ストレートにやってるわけじゃないよ、というのを伝えたいと。

加藤 それをどう出したらいいかなと言われて。あえてつけているタイトルがそのままベタに受け取られないようなイメージを、このA4サイズの中で配置するか。たぶんいくつか方法がある中で選んだのがこれだったということですね。普通ビジュアルがあったら大事なところは避けてタイトルを置いたりするけど、そのいかにも大事なところに何かを置く。すると、言葉とイメージとの変な作用を起こすじゃないですか。写真自体にもそういう思いが見えたから、その延長という感じですね。

倉田 カメラマンが「お気に入りの送るわ」と送ってきた写真が、私の手が写ってるんだけど手自体じゃなくて手首の血管に注目しているような写真で。人間を撮らないというか。そういう気持ち悪さ。がゆえに、本質的な部分があけすけに見えてしまうというか。だから、大事なところを隠してもらったんですよね(笑)。