「ごまかしがきかない世の中に」…『燕は戻ってこない』脚本・長田育恵さんが考える「女性とドラマ」

AI要約

長田育恵さんがNHKドラマ10『燕は戻ってこない』の制作秘話や女性の生きづらさについて語る。

長田さんが『らんまん』の終了後に休息を考えていたが、板垣麻衣子さんの企画に感銘を受けて『燕は戻ってこない』の脚本を手がけることに。

女性劇作家としての悔しさや、女性の生きづらさを描くことの重要性について触れる。

「ごまかしがきかない世の中に」…『燕は戻ってこない』脚本・長田育恵さんが考える「女性とドラマ」

優れた社会派ドラマの作り手の女性たちにインタビューするシリーズ。

第1回目では、NHKドラマ10『燕は戻ってこない』とNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『らんまん』等の脚本家・長田育恵さんにご登場いただいた。

◆本当は『らんまん』が終わったら少しお休みしようと思っていたんですが……

『燕は戻ってこない』は桐野夏生氏の同名小説を原作に据えた、生殖医療の光と影を描く作品。派遣社員として暮らす主人公・リキ(石橋静河)は、職場の同僚から「卵子提供」のバイトに誘われ、当初は嫌悪感を抱いたにもかかわらず、「腹の底から金と安心が欲しい」という思いで、生殖医療エージェント「プランテ」で面談を受けることに。しかし、そこで持ち掛けられたのは「代理出産」だった。元バレエダンサーの草桶基(稲垣吾郎)とその妻、悠子(内田有紀)が、高額の謝礼と引き換えに二人の子を産んでくれる「代理母」を探していた―。

――『燕は戻ってこない』は、朝ドラ『らんまん』のプロデューサー・板垣麻衣子さんの企画から始まったそうですね。

長田育恵(以下 長田) はい。本当は『らんまん』が終わったら少しお休みしようと思っていたんですが、原作・桐野夏生さんの作品が好きだということと、板垣さんの熱意に心打たれて、ぜひ書きたいと思いました。

板垣さんからは『らんまん』の放送期間中に話があると言われ、「このドラマのフロアじゃ話せない」ということで別のフロアに行ったんです(笑)。そこで、板垣さんのこの企画に込めた思いや悔しかったことなどを聞きました。

1人の女性として一生懸命仕事をしてきたはずなのに、30代後半にさしかかると、手に入らないことや、諦めなきゃいけないことが出てくるという悔しさを聞いて、私もすごく共感したんですね。

――長田さんの感じた悔しさはどんなことだったのでしょうか。

長田 大きな舞台の演出家や劇作家の女性には子どもがいる人が少ないのに、同世代の男性演出家や男性作家にはお子さんがいて、奥さんが出産・育児をしているから、家庭人として良きパパでいられるんですね。

私たち女性の劇作家の場合、第一線にいることを望んで、望みが叶ったんだからいいじゃないかと言われるけれど、これが男性であれば、仕事をしながら家庭を築く・子どもを持つことの両方が叶うのに、自分は叶わなかったんです。

そういう理不尽さを自分も感じていたから、板垣さんのやるせない思いに共鳴しましたし、私も諦めてきたことがたくさんあったと改めて感じました。

――『虎に翼』では生殖の問題や不妊、貧困など、女性の生きづらさが描かれている一方、『らんまん』では綾(佐久間由衣)が女性であるために好きな酒造りをすることへの大きな障壁が描かれていました。女性の生きづらさを描くことについての思いをお聞かせください。

長田 女性に限らず、全ての人間の心理を描けることが、フィクションの一番の強みだと思うんですよ。

『燕~』では、リキは生きづらい弱者側であり、千味子は選ばれし特権階級側、強者の立場で登場しますが、どちらか一方の視点だけで、例えば千味子側を仮想敵とするのではなく、痛みとか狡さとか優しさや罪悪感などは全ての人間が共通して持っているものだから、それぞれの立場の人をフェアに描きたいんです。

演劇でも、登場人物が最大13人くらいとして、あらゆる階級、性別、それぞれの特性も踏まえて、同じ事象についてそれぞれがどう思うかということをずっと描いてきました。一方の視点から仮想敵に対して石を投げ続けることでスカッとするような作劇は、これからもきっとしないと思います。

■朝ドラと夜のドラマの違い、『燕は戻ってこない』の原作では描かれていない7話への思い、視聴者の声を聞き感じたことなどについて語った全文は、有料版【FRIDAYサブスク】でお読みいただけます。

取材・文:田幸和歌子