『虎に翼』梅子が持つ“芯の強さと優しさ” 鷲尾真知子が見せる表情の振り幅にゾッとする

AI要約

梅子は息子たちに遺産を均等に分けることを望むが、長男の徹太は異議を唱える。家庭裁判所による調停が始まり、梅子の苦悩が浮かび上がる。

梅子は息子たちに手を取り合って生きてほしいと願い、強い気持ちを持っている。常は梅子を非難し、様々な問題を引き起こす。

光三郎が常の要求を受け入れる条件を提示する中、梅子の強い意志と家族間の複雑な関係が描かれる。

『虎に翼』梅子が持つ“芯の強さと優しさ” 鷲尾真知子が見せる表情の振り幅にゾッとする

 『虎に翼』(NHK総合)第63話で、大庭家の問題は解決せず、家裁に調停の申し立てが行われる。梅子(平岩紙)は遺産が息子たちに均等に分けられることを望んでいるが、長男・徹太(見津賢)は自分が全てを相続するという主張を変えない。

 調停室でうなだれる梅子の姿は切ない。轟(戸塚純貴)とよね(土居志央梨)と共にいる梅子の表情には、調停での疲れだけでなく、大庭家での生活で蓄積した苦労のようなものも感じられる。しかし轟とよねを前に梅子が自らの思いを伝えた時、梅子の人柄がはっきりと映し出された。

「私はともかく、遺産が息子3人に平等に相続されるようにしたいの」

「(息子たちは)それぞれ心配なところがたくさんあるの。だからこそ、3人、手を取り合って生きていってほしい」

 「どんな子でも、自分の息子はかわいいか」という轟の言葉を受けて、やっと梅子の口元に笑みが浮かぶ。「そうなっちゃうのかしらね」と微笑む梅子の心には、息子たちの姿が浮かんでいたに違いない。梅子を演じている平岩は少し沈んだ面持ちながらも、その佇まいには一貫して息子たちを思う彼女なりの強さが垣間見える。思えば梅子は、寅子(伊藤沙莉)たちと学業に励んでいた時、同期である寅子やよね、香淑(ハ・ヨンス)や涼子(桜井ユキ)のことを常に気にかけていた人だった。息子たちを思って笑顔になる姿に、自分以上に大切にしている人たちのことを切に思う、心優しい人なのだと改めて感じられる。

 だからこそ、次男・徹次(堀家一希)から「俺のことなんてどうでもいいくせに」「俺を置いて逃げたくせに」と言われた時、梅子はどれだけ心苦しかったことか。三男の光三郎(本田響矢)が2人の間に入り、「昔みたいに戻ろうよ。一緒に、お母さんが握ってくれたお握り、食べてた時みたいに」と兄に訴えかけるのを見て、どんなに気持ちがいっぱいになったことか。

 第63話は息子たちを思う梅子の強い気持ちに心動かされる回なのだが、梅子の義母・常(鷲尾真知子)の言動も心に強く印象を残す。「私は、徹太には面倒を見てほしくない」と言った常だが、決して梅子や他の息子たちを思って言った言葉ではない。

「梅子さん、あなたが悪いんですよ」

「あなたが徹太の嫁をきちんとしつけないから」

 悪びれる様子もなく、さも当然といった言動にゾッとした視聴者もいるのではないだろうか。常が光三郎の扶養に入りたいというのも、梅子が自分の世話をしてくれるはずという自己中心的な理由からだ。心優しい光三郎はその要求を受け入れる代わりに、「お母さんに意地悪しない、命令しない」約束をするよう常に念押しした。ここでは、常を演じる鷲尾の演技がよりいっそうこの家族の不穏さを感じさせてくれる。

 鷲尾は一瞬、梅子の顔を冷たいまなざしでじっと見た後、光三郎の前で見せるおばあちゃんの表情に戻り、「いいですよ、約束しましょう」と言う。異なるまなざしが梅子への無関心さを際立たせる。光三郎に向けられた「いいですよ、約束しましょう」という物言いがどんなに優しそうに聞こえても、梅子に見せた一瞬のまなざしが、常に梅子への態度を変える気はないことをあらわにしている。

 寅子は梅子が光三郎のことを立派な青年に育てたことを嬉しく思うも、大庭家の問題はいまだ平行線をたどるままだ。梅子の望みは叶うのだろうか。