全国に広がる吃音者が接客する「注文に時間がかかるカフェ」の試み 当事者の若者に芽生える勇気と自信

AI要約

長崎県内初の吃音者が接客するカフェが1日限定でオープン。吃音者が集めた資金を基に全国で展開されており、若者が自信をつけるための取り組み。

カフェでは吃音者スタッフが接客し、客に言い終わるのを待つよう説明。吃音についての理解を深め、自信を持たせることを目指す。

店員の一人である若者が吃音の苦労を振り返り、友人やイベントを通じて少しずつ自信を取り戻していった様子が語られている。

全国に広がる吃音者が接客する「注文に時間がかかるカフェ」の試み 当事者の若者に芽生える勇気と自信

 言葉に詰まったり同じ音を繰り返したりする「吃音(きつおん)」の若者が接客する「注文に時間がかかるカフェ」が、長崎県内では初めて1日限定でオープンした。吃音当事者がクラウドファンディングで集めた資金を基にこれまで全国24都道府県で開いている。今回、カフェ誘致に乗り出したのは佐賀大2年の辻勇夢さん(19)=諌早市出身。「自分の姿を見てもらい、同じ吃音者に勇気を与えたい」と苦手意識のある接客に挑戦した。

 5日午後。長崎市中心部のビル一室に辻さんがいた。カウンターとテーブルがあり、客席10席のカフェ。事前予約した客が入店する。出迎えた辻さんは「スタッフは全員吃音者です。話を遮らずに、言い終わるのを待ってください」と、少しこわばった表情で説明した。

 カフェ発起人の奥村安莉沙さん(32)=東京都=が取り組みを始めたのは3年前。吃音についてより多くの人に知ってもらい、接客経験を通じて当事者の若者に自信をつけてもらうのが目的だ。

 昨年8月に、福岡で開かれたカフェに客として訪れた辻さん。同世代が客と臆せずやりとりする姿に心が揺さぶられた。「長崎でも開きたい」と奥村さんに連絡を取った。

 この日の店員は辻さんのほか、関西の男子大学生と女子高校生。辻さんは、客に無料のドリンクを提供し、全ての客席を回って積極的に雑談。少しずつ笑顔が増えていく。吃音に関するクイズを出題し、つらい思いをした経験も語った。

 それは小学校入学直後のこと。クラスでの自己紹介でなぜか名字の「つ」が言えない、出てこない。沈黙が数秒続いた後、「えーと、あのー。つ、辻です」。教室に笑い声が響いた。それから教科書の音読や発表などで強い不安に駆り立てられるように。「学校に行きたくない」と落ち込むこともあった。

 友人に吃音を打ち明けたのは高校生になってから。気の合う級友は「大丈夫だよ」「何かあったら頼ってね」と寄り添ってくれた。次第に隠さなくなり、失っていた自信を取り戻し始めた。

 この日、県内外からの客約30人と触れ合った辻さん。中には県内の吃音者も数人いた。バイトで接客業を避けてきたけれど「楽しく会話できた」と振り返り、ほっとした様子。また一つ自信を手に入れた。

 客の一人、諫早市の中学3年中島叶愛(かのあ)さん(14)は「少し話すのがゆっくりだとは思ったが気にならなかった。吃音者がいても、普通に接したい」と話した。

 奥村さんは、地方では当事者同士の集まりが少ないと指摘する。「カフェを通して、地方の当事者に『近くに仲間がいる』と知るきっかけにしてほしい」

 一日店員を終えた辻さんは力強く宣言した。「今後も何かしらの活動をして、吃音を理解してくれる人を増やしたい」

 (才木希)