運転手は取り合い…音楽や舞台にも2024年問題の影響 東京一極集中に懸念「地方公演敬遠されるのでは」

AI要約

トラック運転手の残業規制強化で物流の停滞が懸念される「2024年問題」が、音楽や舞台の現場にも影響を及ぼしている。

運送業者から納期の確約ができなくなり、地方公演の日数減や収入減の懸念が広がっている。

物流にかかる時間や費用の上昇が避けられず、新たな予算獲得手段や持続可能な方策を模索する必要性が高まっている。

運転手は取り合い…音楽や舞台にも2024年問題の影響 東京一極集中に懸念「地方公演敬遠されるのでは」

 トラック運転手の残業規制強化で物流の停滞が懸念される「2024年問題」で、音楽や舞台の現場にも影響が出ている。楽器や大道具を運ぶドライバーは専門性もあり、各地で取り合いの状況だ。時間とコストの増大により「地方公演が敬遠されるのでは」との危惧も広がる。新型コロナ禍を脱して劇場に人が戻りつつある中、新たな課題に関係者は頭を悩ませている。

 「運送業者から納期の確約ができないという声を聞くようになった」。全国区の劇団やダンスカンパニーによる公演を多く手がける北九州芸術劇場(北九州市)の担当者は語る。

 舞台道具を東京から北九州市まで運ぶ場合、運転だけで12時間以上を要する。これまでは東京で終演した作品を翌日には北九州でセッティングできた。しかし、ドライバーの拘束時間の上限が引き下げられ、輸送に必要な時間が増えた。先日も、トラックが予定日に到着できず、準備の日程が1日遅れることがあったという。

 劇団側は移動時間が増える分、地方公演の日数減を余儀なくされ、劇場も収入減を懸念する。歌舞伎やミュージカルなどの長期公演が目玉である博多座(福岡市博多区)の担当者は、本格的な影響は、今年の契約が反映される来年度以降になるとしつつ、「10日間上演だった作品が、仕込みと撤収を踏まえて8公演にしなければならない可能性もある」と気をもむ。

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 音楽や舞台の物流を担うドライバーは運ぶだけでなく、セッティングも担う場合もある。ある程度の専門的知識も必要で、人手不足はさらに深刻のようだ。

 北九州市の運送会社「ヤマックス」は、九州交響楽団をはじめとする楽団や吹奏楽部など、演奏会の楽器運送に専門ドライバー約20人で対応している。

 学校の吹奏楽コンクールがある夏期は例年、楽器運搬だけで月に約100件を受注してきたが、今年は例年の3割ほど依頼が増えた。同社は「ほかの業者で対応しきれない分が流れてきている」とみる。

 同社代表取締役の山田雄二さんによると、近場であれば複数の現場を掛け持ちしてもらうが、遠方の場合は搬入先でドライバーに休みを取らせるなどの必要があるため、慢性的な人手不足は解消していない。

 一方、九州でステージ関係の運送に携わるドライバーは「多く稼ぐために、社員から個人事業主に切り替える人も多い」と明かす。上限規制を超えて働ける面もあるが、労働問題が専門の西野裕貴弁護士(福岡城南法律事務所)は「安全配慮が不十分になりやすく、危うさがある」と指摘する。これまでがドライバーに過酷な労働を強いることで成り立っていた面もあるといい「人材を増やさなければ抜本的解決にはならない」と語る。

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 輸送にかかる時間、費用の上昇は避けられないだろう。円安、物価高も相まって音楽や舞台公演のコストは増えていくが、国や自治体の文化予算は減少傾向で、チケット代に上乗せすれば客足は遠のく。「コスト減や新しい予算獲得手段を見つけるしかない」と福岡のホール関係者。

 もともと減少傾向の地方公演。今後はさらなる「東京一極集中」に向かうのか。多様な芸術作品を届ける持続可能な方策を探すことが、多方面の関係者に求められている。 (川口史帆)