スーパーに大行列の恥ずかしさ… 米の「パニック購買」は防げたはずだ

AI要約

米騒動が起こった理由や経緯、都市部でのパニック購買による影響等が詳細に説明されている。

国の減反政策や猛暑による高温障害など、さまざまな要因が流通を滞らせたことが明らかにされている。

過去の米騒動と比較し、「令和の米騒動」が実際には都市住民の一時的な不安から生まれた現象であったことが示唆されている。

スーパーに大行列の恥ずかしさ… 米の「パニック購買」は防げたはずだ

 9月14日土曜の8時15分、近所の「OKストア」に行ってみた。8時半の開店を前に、私が並んだのは先頭から3番目。並んだのは計10名程度だった。開店してすぐの米売り場を観察してみると、米は80袋ほど並んでいたが、すぐ買った人は2名だけ。14時過ぎに再度売り場を訪れてみても、50袋程度が残っていた。

 つい2週間前、同じ土曜日の8月31日には、開店と同時に70名強が米を買おうと殺到していたのに――。9月も半ばになると「令和の米騒動」と呼ばれた事態が、まるで無かったかのようだった。

 今夏、令和の米騒動とまで呼ばれた米の欠品がなぜ起こったのか、改めて振り返っていきたい。

 大きな視点でいえば、まず、国の減反政策によって生産量が減っていたというのはあるだろう。また、新米が入る前の端境期(はざかいき)である8月や9月は、例年、米が若干品薄になる時期である。今年はさまざまな要因が加わって流通が滞ったといえる。

 今年の事情に注目してみると、まず、2023年は猛暑によって米の高温障害が発生し、精米時の歩留まりが悪かった。それゆえ、「米業界では今年春には不足が懸念されていた」(宇都宮大学農学部助教 ・小川真如氏)そうだ。

 加えて、今年は幸か不幸か米需要が高まった。インバウンド客の増加で……という説はともかく、外食産業や中食(チルド弁当など)の売れ行きは堅調だった。また、円安で大きく値上げした小麦を原料とするパスタなどに比べると、米は影響が小さく、人々の需要が増加したのである。日本農業新聞によれば、23年7月~24年6月の主食用米需要実績は、前年を11万トン上回る702万トンだったという。近年は毎年10万トンずつ減っていたようで、前年を上回ったのはじつに10年ぶりというから、こうした動きは数字にも表れている。

 こうした状況もさることながら、買いだめも米不足に拍車をかけた。8月8日、宮崎で最大震度6弱の地震が発生したことにより、南海トラフ地震の緊急時備蓄用の購買ニーズが高まったのだ。これで、8月上旬より店頭から徐々に米がなくなったのである。

 そして、お盆の頃から“令和の米騒動”報道が加熱し、都市部でのパニック購買に繋がった。8月26日、大阪の吉村洋文府知事による農水省への備蓄米放出要請も、消費者の危機感を煽り、パニック購買を加速させた要因だろう。結果、私が8月末に目撃したような米を求める行列が、大都市圏を中心に散見されたのである。

 吉村知事がいう備蓄米とは、日本の年間の米総需要700万トン前後に対して、14%程度の約100万トンが国によって備蓄されているものをいう。これは、10年に1度の大凶作や2年連続の不作にも対応できるような量で、そもそも、今回のような一時的な品薄に対応する性質のものではない。

 前出、小川氏や同氏の著書『日本のコメ問題 5つの転換点と迫りくる最大の危機』(中公新書)によれば、過去には2回の米騒動があったという。1918年の大正と1993年の平成の米騒動だ。

 平成の米騒動は大不作が原因だった。当時は備蓄米の制度がなく、騒動の要因となった。これをきっかけに備蓄米制度が誕生したわけだが、今回は備蓄米も含めれば、国全体として米が不足していたわけではないのだ。

 こうした経緯を見れば、今夏の米騒動は都市住民が中心の「商店の棚にコメがないからどうにかして」というレベルにすぎない。過去のものと比べれば「米騒動」と呼ぶべきものかも怪しい。