「会社を辞めるしかない」 介護離職しないために必要なこと
介護離職が社会問題化している背景と、介護休業制度の活用方法について、仙台市の介護離職防止支援センター代表が語っている。
人々が介護問題を避ける傾向と、介護休業制度の限界について示唆されている。
介護についての意識改革が個人や企業レベルで必要であると強調されている。
働き盛りの社員が突然会社を辞めてしまう。介護離職が社会問題になっています。介護離職防止支援センター(仙台市)代表の佐藤一臣さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】
◇ ◇ ◇ ◇
――介護離職の問題もだいぶ知られてきました。
◆言葉は聞かれるようになりましたが、内容を本当に理解している人は少ないと思います。「そんな実感はない」と言われます。50代、60代でも、「親はまだピンピンしているから大丈夫」と思っている人がほとんどです。
現実には、近い身内に介護が必要な人が出ない限り、介護制度について知ろうとする人はまずいません。
◇考えたくない
――追い込まれてからはじめて、ということでしょうか。
◆会社に相談する時には、どうするかを決めてしまっている人も多いのです。早いうちから相談するべきなのですが、「考えたくない」という現実逃避が多いと感じます。介護について、会社に相談することをためらう人も多いのです。
――よく考えずに離職してしまう人も多いのでしょうか。
◆介護は20年以上続く場合もあります。しかし、そこまで自分が介護する可能性があるという想像ができていないのではないでしょうか。50代で離職すると、再就職は難しくなります。離職は会社にとっても痛手です。よいことはありません。
――介護休業制度は介護離職を防ぐための制度のはずです。
◆どこまで防げているかは疑問です。手厚い制度がある一部の大企業ですら、制度を利用する人は限られています。休むと会社に迷惑を掛けると思う人は多いのです。その結果、会社を辞めようとなってしまいます。介護休業さえとらず、いきなり離職する人は多いのです。
介護は誰にでも起きる可能性があります。社会も会社も、介護で休むのは当たり前だという環境に変えることが大切です。
◇介護休業は取り方が大事
――介護休業をどう活用すべきでしょうか。
◆ただ取るのではなく、取り方が大切です。休業中、自分で介護をするだけでは、取ったあとは、「会社を辞めるしかない」となってしまいます。仕事を続けられる環境を整える期間と考えるべきです。
タイミングとしては要介護認定を受ける時がよいと思います。地域包括支援センター、行政、民間サービスなどの専門家が関わる機会になりますから、長期的な計画を立てられれば、不安も少なくなります。自分だけではなく、他の人の助けも借りることを、具体的に想像できるようにすべきです。
◇「自分だけ」ではうまくいかない
――親の介護は自分でという気持ちもあります。
◆仕事を辞めてでも、自分でやりたいという気持ちは尊重したいと思います。
しかし、制度や事例を知ることで気持ちは変わります。家族だけで介護するとうまくいかないことも多いのです。他人に任せるところは任せて、自分もうまく関わりながら、一緒に介護していくことが理想です。仕事を辞めずに、親の介護もすればいいのです。
――これから介護が必要な高齢者は増えていきます。
◆働きながら介護するビジネスケアラーが当たり前になります。日ごろから介護を現実のものとみておかないと、実際に始まった時にパニックになります。
ふだんから介護を意識するのは難しいと思います。しかし、介護は企業経営に必ず影響しますから、まず企業が社員に働きかけることから始めるべきです。
社会全体が介護に対する考え方を変えていかないと、会社を辞める人が急激に増えるようなことが必ず起きます。(政治プレミア)