人口流出に悩む「幸せの国」ブータン 課題解決へ「過疎」と闘う日本海の離島が支援 学校を核に地域を変える【島根発】

AI要約

ブータン王国と日本の島根・海士町が共通の課題解決を目指し交流を深めている。ブータンは経済成長よりも国民の幸福を重視するが、コロナ禍で経済的苦境に立たされている。若者の国外流出が大きな課題となっており、海士町は人口流出対策や地域課題解決に取り組んでいる。

独自の地域課題解決型学習を取り入れる隠岐島前高校の生徒たちは、ブータンを訪れ地域課題を探る。海士町の「魅力化」に取り組む岩本さんを中心に、ブータンとの交流を通じて地域活性化や持続可能な地域づくりを目指している。

海士町とブータンは持続可能な幸せを実現するという共通の理念を持ち、異なる視点から学び合いながら、地域の課題解決に取り組んでいる。高校生のブータン訪問も、異文化体験や課題の共有を通じて、若者の視野を広げる機会となっている。

人口流出に悩む「幸せの国」ブータン 課題解決へ「過疎」と闘う日本海の離島が支援 学校を核に地域を変える【島根発】

ヒマラヤ山脈の東に位置し、北は中国、南はインドに挟まれた小国、ブータン王国。経済成長より国民の幸福を求める独自の政策を取り、「幸せの国」とも呼ばれるが今、人口流出など多くの課題に直面している。

その解決に一役買おうと支援しているのが、島根・海士(あま)町だ。人口減少対策など、これまでの海士町独自の取り組みをお手本に、島の高校生たちがブータンの地域課題解決に挑んでいる。

日本から直線距離で約4800km、ヒマラヤ山脈の東に位置するブータン王国。九州とほぼ同じ広さの国土に、島根県より10万人ほど多い約78万人が暮らしている。

国連の世界幸福度ランキングで2013年、8位にランクインし、「幸せの国」として知られるようになった。

GNH(国民総幸福量)という独自の指標に基づいて、経済成長よりも国民の幸福追求を重視した政策が取られているが、コロナ禍を経て「幸せの国」は経済的な苦境に立たされている。

主要産業の1つ、観光業の回復が遅れる一方、若者の失業率が上昇。働き場所と高い賃金を求めて、オーストラリアや北米などに移住する若者も増え、地方から首都へ、さらに国外への人口流出が大きな課題になっている。

市民からは「海外で働くことができるのは、いい機会だと思う」「外国に出ていくことで、多くの労働力が失われていると思う」といった声が聞かれた。

こうした状況に歯止めをかけ、ブータンが抱える課題の解決に一役買おうと支援の手を差し伸べているのが、島根・海士町だ。本土から約60km、日本海に浮かぶ隠岐諸島にある海士町は、人口流出という共通の課題を抱え、水産物のブランド化や「島留学」と呼ばれる町外からの高校生の受け入れ制度など独自の取り組みで、「過疎化」「人口減少」などの課題克服を目指している。

ブータンとは、共通する地域課題の解決を目指し、2016年から交流を進めている。

2024年8月、ブータンの唯一の国際空港に降り立った4人の高校生。海士町にある隠岐島前高校の生徒たちだ。

「もうちょい自然がメインかなと思ったら、中心部意外と栄えてて」と、ブータンの第一印象を話したのは、隠岐島前高校2年生の渡邊優菜さん。渡邊さんたちはブータンの地域課題を探るため、はるばるやって来たのだった。

定員割れが続き、学校の存続も危ぶまれた隠岐島前高校では生徒の確保を目指し、2008年からカリキュラムの「魅力化」に取り組んできた。

その一環で授業に取り入れられているのが「地域課題解決型学習」。学校がある海士町が抱える課題を生徒が自ら見つけて解決策を探り、実際に解決に向けて取り組む、実践型の授業だ。自ら考え、課題を解決する能力を身に付けることができると高く評価され、学校には町外からも生徒が集まり、若い世代の移住者を町に呼び込むきっかけにもなっている。

こうした教育からのアプローチで課題を解決し、住みよい地域を目指す海士町独自の手法をブータンが抱える同様の課題解決につながらないかと、支援の取り組みが始まった。

その支援の中心になっているのが、「地域・教育魅力化プラットフォーム」の岩本悠さんだ。2010年、海士町にIターンし、隠岐島前高校の「魅力化」に携わり、現在は「地域・教育魅力化プラットフォーム」を立ち上げ、県内外の高校の「魅力化」をサポートするなど、学校を核とした地域活性化に取り組み、持続可能な地域づくりを目指している。

海士町がブータンの支援に取り組む背景について、岩本さんは「持続可能な幸せを地域、個人においても実現していくという目指したい理念と、今、起きている課題が共通しているので、お互いの異なる視点を生かし、お互い学びあっていくことができる」と説明する。

今回の高校生のブータン訪問についても、「学校やリアルな生活に漬かってみて、さらに一緒にやれる部分、課題の探求をしてほしい」と話し、国境を越えて同じ悩みを抱える地域の課題解決に取り組むことが、高校生の視野を広げるきっかけになればと期待する。