「交通空白」地域に導入されたライドシェア “生活の足”として機能…課題も

AI要約

国は交通空白地域での移動手段の不足を解消するため、日本版ライドシェアと公共ライドシェアの拡大方針を打ち出した。

長崎県平戸市南部では公共ライドシェアが運行され、高齢者や児童の移動支援に役立っているが、運行費用やドライバー確保の課題も浮かび上がっている。

全国で公共ライドシェアが広まりつつあり、自治体やNPO法人が積極的に導入しているものの、担い手不足や事業者の懸念などの課題もある。

「交通空白」地域に導入されたライドシェア “生活の足”として機能…課題も

 移動手段が乏しい「交通空白」の解消に向け、国は一般ドライバーが自家用車で客を運ぶ「日本版ライドシェア」と自治体やNPO法人が運行主体となる「公共ライドシェア」(自家用有償旅客運送制度)を拡大する方針を打ち出した。公共ライドシェアは、これまでも公共交通機関の少ない地方で認められてきた。九州の導入地域を取材すると、“生活の足”として機能している半面、運営コストやドライバーの確保といった課題も見える。 

 天然ヒラメやウチワエビの水揚げ地として知られる長崎県平戸市南部の志々伎(しじき)地区。718人(8月1日時点)の住民の約半数が65歳以上だ。運転免許を持たない人も少なくない。

 地区では住民組織のまちづくり運営協議会が、移動支援車「志々伎ふれあい号」を運行している。7人乗りの白ナンバー車を一般ドライバーが運転し、利用者の要望に応じて走るオンデマンド式。「明日、スーパーまでね」。6月に訪ねると、協議会の集落支援員、平松泰さん(69)が電話で予約を受け付けていた。

 利用者は1人での外出が困難になった高齢者が多い。目的は近隣のスーパーへの買い物と、市中部の市民病院などへの通院がほとんどだ。通院で利用する1人暮らしの女性(87)は「車は運転しきらんし、バスも不便になっている。これがないと病院にも行ききらん」と話す。高齢者のほか、自宅から小学校が遠い児童の送迎にも使われている。

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 志々伎地区で営業するタクシー事業者はいない。西肥自動車(同県佐世保市)が運行していた路線バスも2020年、運転士不足などを背景に廃止された。

 代替交通を確保するために活用されているのが、公共ライドシェアだ。平戸市は志々伎を含む市南部を走るコミュニティーバスを1日十数便運行。バス停までの移動すら難しい高齢者もいるため、バスを補完する交通手段として、協議会が16年からふれあい号を走らせている。

 ふれあい号はこれまで無事故。ドライバーの大谷茂さん(70)は県内の自動車学校に約35年間勤めた経歴を持つ。「地域の人が喜んでくれる。これ以上にない仕事」と胸を張る。

 年間で延べ約2千人が利用するふれあい号だが、事業の継続に利用料収入だけでは「全く足りない」(平松さん)という。ドライバーの人件費など運行経費の多くは市や協議会の負担で賄っている。市総務課の担当者は「市民に気兼ねなく使ってもらうため、安価にしている」と説明する。

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 国土交通省によると、全国の「交通空白地」で自治体やNPO法人など698団体(23年3月末時点)が公共ライドシェアを導入している。近年は規制緩和や制度の整理が進み、今年6月に大分県別府市がコミュニティーバスの運行を新たに始めるなど、バスやタクシー不足の補完機能として浸透しつつある。

 制度に詳しい九州大大学院の嶋田暁文教授(行政学)は課題として、ドライバーの担い手不足や、公共交通に精通した自治体職員が少ないことを挙げる。売り上げ減を懸念するタクシー事業者が導入に反発するケースもあるといい、「明確に売り上げが下がった場合は自治体が補てんするなど、事業者を安心させるような取り組みがあっても良いのではないか」と話す。

 (山下航)

 交通事業者がサービスを提供していないような「空白地」で、市町村やNPO法人が自家用車を活用して有料で輸送サービスを提供する自家用有償旅客運送制度を指す。2006年に始まり、ドライバーは2種免許を持たなくても、国認定の講習を受ければ運行ができる。国は昨年末、導入を広げるために運行の要件を緩和した。