「のろのろ台風」四国でも被害 民家崩れ1人死亡、通学路で土砂崩れ

AI要約

徳島県で台風10号の影響で木造住宅が倒壊し、80代男性が窒息死。記録的な大雨による被害も報告された。

後藤田知事は安全確保を呼びかけ、避難指示が出された地域もあり、学校や公共交通機関にも影響が。

愛媛県や高知県でも土砂崩れやけが人が発生し、スーパーマーケットでは生鮮食品の品薄状態が続く。

「のろのろ台風」四国でも被害 民家崩れ1人死亡、通学路で土砂崩れ

 ゆっくりとした速さで進む台風10号の影響が、四国の各地でも確認された。

 徳島県上板町神宅では29日夕、木造一部2階建て住宅の屋根や天井が崩れ、この家に住む80代男性が巻き込まれて死亡した。

 徳島板野署によると、29日午後5時20分ごろ、亡くなった男性の息子から「建物が倒壊した。父親と連絡が取れない」と119番通報があり、約1時間後に消防が住宅の中から男性を救助。男性は搬送先の病院で死亡が確認されたという。死因は窒息死だった。

 壊れた住宅は、折れた木材などが天井部分からむき出しになり、開いた窓からは内側に崩れ落ちた屋根が見えた。この地域に住む70代女性は「29日夕方からバケツをひっくり返したような雨が降りだして、車を運転中にワイパーを動かしていても前が見えないほどだった」と話した。

 通報の前後には県内で線状降水帯が発生しており、気象庁によると、上板町付近では午後6時30分までの1時間に約110ミリの降水量を観測し、記録的短時間大雨情報が出されていた。

■後藤田知事「早めの安全確保を」

 徳島県は30日、災害対策本部を設けた。午前10時からあった会議には、県のほか、警察や気象台、自衛隊、海上保安部、四国電力などが参加。上板町で起きた住宅損壊で男性1人が死亡したことも報告された。

 本部長の後藤田正純知事は「早めに安全を確保してほしい」と県民に呼びかけたうえで、会議のメンバーに対し、災害に備える情報発信、迅速な被害情報の収集などを指示した。

 県のまとめでは、30日午後3時時点で、佐那河内村の全域と、阿南市、吉野川市、阿波市、石井町、上板町など8市町村の計約3万3千人に対し、警戒レベル4の「避難指示」が出されており、14市町村で107人が避難した。

 公立学校計290校のうち、夏休み中の学校をのぞく83校が臨時休校となった。

 徳島県内を発着する高速バスは、徳島バスとJR四国バスが共に30、31両日の四国3県、関西、東京線の全便を運休。9月1日の東京線上下便と2日の東京発の下り便も運休する。

 徳島と和歌山を結ぶ南海フェリーは30日午前2時45分徳島港発の便を最後に欠航し、31日も全便欠航する。

 徳島阿波おどり空港は30日、JAL、ANAの全便が欠航となったため、終日ターミナルビルを閉館した。31日はJAL、ANA共に徳島発の第1便の欠航が決まっている。

■愛媛県内ではけが人も

 松山市中心部の松山城がある山では、7月にあった大雨で土砂崩れが起き、3人が亡くなっている。

 市は30日午後、現場周辺で土砂災害発生の危険性が高まったとして、今月21日まで避難指示が出ていた緑町1丁目の20世帯33人に、改めて土砂災害に関する警戒レベル4の避難指示を発令した。各世帯主に電話でただちに避難を始めるよう呼びかけるとともに、見回りに当たっている消防車からも周辺の家庭に注意を呼びかけた。

 崩落現場などでは、夜間も含めて市職員が7人1班の3交代で見回りを続けている。

 愛媛県内では、けが人も出ている。新居浜市によると、市内のショッピングセンターの駐車場で29日午前10時55分ごろ、80代の男性が強風にあおられて転倒。顔に切り傷を負った。軽傷という。

■JR四国は香川を除く3県で全面運休

 JR四国は30日、瀬戸大橋を渡る本四備讃線と愛媛、高知、徳島県内の全列車を運休。香川県内では予讃、高徳線の一部区間で普通列車のみ運転した。31日も始発から同様の対応を取る予定だが、天候が回復し、線路の安全が確認され次第、昼以降に快速マリンライナー(高松―岡山間)、夕方以降には特急宇和海(松山―宇和島間)、松山、高知駅近郊などの区間で普通列車の運転を再開するとしている。

 30日の予讃、予土両線は終日運休し、愛媛県宇和島市のJR宇和島駅の構内はひっそりとしていた。バス停にいた女性会社員(21)は、普段よりも1時間早い午前6時過ぎのバスを待った。職場までは約30分の道のりだが、土砂崩れの影響に備えたという。「市内は川が多いので氾濫(はんらん)がとても不安。何事もなく台風が過ぎ去ってくれればと思う」と話した。

 JR高松駅ビルの商業施設「高松オルネ」(高松市浜ノ町)は30日、台風10号の接近を受け、通常より3~5時間早く、午後5時に閉館。31日も臨時休館を予定している。悪天候による臨時休館は3月の新駅ビル開業以来初めてという。(吉田博行、木野村隆宏、能登智彦、相江智也、戸田拓、堀江泰史、華野優気、福家司)

■高知県では通学路で土砂崩れ

 高知県の山間部に位置する津野町では26日の降り始めからの雨量が30日午後4時までで636ミリを記録。平年の8月1カ月の降水量(605・9ミリ)を上回った。町内では少なくとも5カ所で土砂崩れが確認され、町は土砂災害に加えて河川氾濫(はんらん)の危険性も高まったとして29日午後2時42分に町内707世帯に避難指示を出していた。

 町建設課などによると、高台にある東津野中学(同町力石)近くの通学路で29日朝、縦30メートル、横10メートルにわたり斜面が崩れ、土砂が道路をふさいでいるのが見つかった。同中学では台風の影響で29日に予定されていた始業式が9月2日に延期されており、中学校では迂回(うかい)路を通って登校するよう指導する。

 また、土砂崩落で中学校に隣接する東津野学校給食センターへ食材が搬入できず、給食の調理ができない状態という。町によると、道路は9月9日に仮復旧する見込みで、同中学に加え、認定こども園「さくらんぼ園」と中央小学校の教職員を含む175人に給食提供ができなくなるという。同中学などは弁当持参を呼びかける。

 近くの70代の女性は、健康のために土砂崩れのあった町道を毎日歩いていたという。「雨が降ると石が落ちることもあり、怖いと思っていた。でもまさか、びっくり。ルートを変えることも考える」と話していた。

 また29日午後3時ごろ、同町北川の東津野採石工業から県に「台風の影響で採石場内で土砂崩れが発生した」と連絡があった。県によると、縦100メートル、横20メートルにわたり山腹が崩壊した。流出した土砂に覆われた町道北川宮谷線は通行止めとなり、復旧のめどはたっていない。町内ではこのほか、国道439号と県道48号などでも土砂崩れなどで通行止めとなっている。(土居恭子、羽賀和紀)

■スーパーでは生鮮食品が品薄に

 台風10号がゆっくり接近するのに伴い、高知県内では30日、市民生活への影響がじわりと出始めた。「のろのろ台風」の影響で本州側からの物流の多くが止まったのに加え、生鮮魚介類なども品薄状態になっているという。

 高知県内のスーパーマーケットでは、商品を載せて本州側から来る物流業者のトラックの多くが止まり、カットサラダや乳製品などの入荷が減っている。

 魚介類も出漁の見合わせで地元で水揚げされる魚が入りにくくなっている。

 県内を中心にスーパーマーケット27店舗を展開するサンシャインチェーン(高知市)の担当者は「台風が通過しても、一部の品薄状態は今週末まで続きそうだ」。

 買い物客の動向は、事前に台風の影響が長期間に及ぶとの情報もあり、25日ごろから「特需」が続いていたという。「この夏は『南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)』の発表もあり、消費者の危機意識が高く、備えていた消費者も多いのではないか」と話した。

 30日は高知市桟橋通4丁目のとさでん交通の車庫に、運休となった路面電車や路線バスがずらりと並んだ。

 浦戸湾の入り口近くで運航する高知県営渡船「龍馬」(52トン、旅客定員110人)は、3日連続の欠航となった。

 運航管理者の中平尋幸さん(74)は「今回は『のろのろ台風』。3日も台風で欠航したのは初めてだ」。(亀岡龍太)