「食洗機」が日本でなかなか普及しない残念すぎる理由

AI要約

食洗機の普及が進まない背景には、人々が「時間をかけて一生懸命頑張る=善」という考え方を持つため、楽をしすぎることを避ける傾向があることが挙げられる。

食洗機は圧倒的に便利なのに普及率が低い理由として、置き場所の問題や贅沢品としてのイメージ、過去の記憶による反対意見が存在する。

人々は嫌な記憶を払拭し、過去の出来事を良い評価のエピソードだけで覚えてしまう「バラ色の回顧」という傾向が食器洗いの大変さを過小評価する要因として影響している。

「食洗機」が日本でなかなか普及しない残念すぎる理由

 人の「サボりたい」「ラクしたい」という欲望は尽きず、そうした需要に寄り添った時短家電やサービスが次々と市場に登場している。そんな中、なかなか普及が進まないのが食洗機だ。その背景にある「時間をかけて一生懸命頑張る」=「善」とする考え方は、ブラック企業の考え方にも通ずるのだとか…。※本稿は、松本健太郎『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』(毎日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

● 圧倒的に便利なのに 食洗機はなぜ普及しないのか

 明確なニーズがあって、困っている人がいるのに、なかなか世の中に浸透しない耐久消費財の代表格が「食洗機」です。

 次のグラフを見れば一目瞭然ですが、「スマートフォン」などに比べると普及率は40%未満と、いまだ一般に普及しているとは言いがたい状況です。食器を洗う手間を自動化してくれるのですから、圧倒的に「楽」になるのは間違いないと思うのですが、なぜかいまいち普及しないのです。

 パナソニックが2015年7月に発表したプレスリリースによると、食洗機を購入していない人の理由として「キッチンに置くスペースがない」という理由がもっとも多かったそうです。確かに昔の住宅には「食器洗濯器」の概念がありませんでしたから、置き場所が無いとする理由は頷けます。

 そのほかの意見として「贅沢品のイメージがある」「欲しいけど夫や姑に遠慮している」「家族が嫌がる」という理由もありました。こちらは非常に興味深いと筆者は感じました。「さらに楽になる」のを、必ずしも良いと思わない人もどうやら一定程度いるようです。

● 高価な食洗機をわざわざ買うほど 食器洗いは大変な作業なのか

 人間は必ずしも「過去」を「過去のまま」で記憶していません。「楽になる」と伝えても、「もともとそんなに辛くなかった」「私だって苦労してやってきた(のだから貴方も同じ苦労を味わいなさい)」と記憶を捻じ曲げてまで反対する人がいます。それが姑だったら最悪です。

 例えば「バラ色の回顧」として知られる傾向があります。

【バラ色の回顧】Rosy Retrospection

 過去の出来事について不要な記憶(嫌だったこと、辛かったこと)を削ぎ落とし、良い評価のエピソードだけを覚えている傾向。

・具体例

 大人同士でケンカになった場合、仲裁者が「時間が解決してくれる」という言い方で宥めたりするのは、まさに「バラ色の回顧」が頭の中にあるから。時間が経てば嫌な記憶も忘れてしまう。同窓会に参加すると、昔話に花が咲くのも同じ理由と思われます。