生息数はわずか100頭前後 絶滅危惧種「ツシマヤマネコ」が人のせいで犠牲の不幸 ロードキルは単なる”かわいそうな交通事故”ではない

AI要約

動物病院で治療を受ける動物の病気や死に向き合う獣医病理医の印象的なエピソードを紹介。

道路上での野生動物の死亡事故「ロードキル」が希少動物の絶滅につながる要因となることもある。

ツシマヤマネコを例に取り、希少動物の遺体調査を通じて絶滅対策が進行している状況を明らかにする。

生息数はわずか100頭前後 絶滅危惧種「ツシマヤマネコ」が人のせいで犠牲の不幸 ロードキルは単なる”かわいそうな交通事故”ではない

飼っている動物が病気になったら、動物病院に連れて行きますよね。動物病院には外科、内科、眼科など、さまざまな専門領域の獣医師がいますが、獣医病理医という獣医師がいることを知っていますか? 

この記事では、獣医病理医の中村進一氏がこれまでさまざまな動物の病気や死と向き合ってきた中で、印象的だったエピソードをご紹介します。

■人間と野生動物の距離が近い

 車を運転したことがある方であれば、これまでにきっと一度は、道路上で交通事故に遭った動物たちの姿を目にしたことがあるのではないでしょうか。

 道路管理者(道路法の規定によって、安全かつ円滑な交通の確保を図るために道路を管理する)によって回収されるまでの間、何度も車両に踏みつけられ、見るも無残な状態で横たわっている――それは車を運転していれば一瞬のことですが、しばらく心に痛みが残る悲しい光景です。

 日本は国土に豊かな森林が広がっており、多種多様な野生動物が生息しています。しかし、例えば山が切り開かれて道路ができた結果、人間と野生動物の距離は近くなり、さまざまな軋轢も生じます。動物の交通事故死は、そんな人間と動物の軋轢の1つのケースです。

【写真7枚】絶滅危惧種「ツシマヤマネコ」の特徴がわかる写真と、ロードキルの実態、対策について紹介。

 道路上で起きる野生動物の死亡事故を「ロードキル(road kill)」といいます。主には車両による轢死や衝突死を指しますが、道路脇の側溝に落ちて転落死や溺死することや、乾燥による乾涸死(かんこし)も含みます。

■希少動物を絶滅に向かわせる要因に

 希少な動物にとっては、ロードキルが種を絶滅に向かわせる決定打になることがあります。例えば、ぼくが環境省の協力を得て2018年から遺体の死因調査を続けているツシマヤマネコがそうです。

 日本には、長崎県対馬と沖縄県西表島に、それぞれツシマヤマネコとイリオモテヤマネコという野生のヤマネコが分布しています。

 どちらもユーラシア大陸に分布するベンガルヤマネコの亜種(同一種でありながら、地域によって何らかの差がみられる種のこと)です。

 ヤマネコやトラ、ヒョウなど多くの野生のネコ科動物には、耳の後ろに「虎耳状斑(こじじょうはん)」という白い斑点模様があります。イエネコには虎耳状斑がありませんので、これが野生のネコとイエネコを見分ける1つの指標となります。また、ヤマネコは体型がイエネコと比べて胴長短足で、長く太い尻尾を持ちます。