「このままでは会社が終わる」…4000億円の特別損失を計上した窮地で伊藤忠商事の元会長が決めた「驚きの覚悟」

AI要約

元伊藤忠商事会長、そして民間人初の中国大使を務めた丹羽宇一郎さんが、自身の人生の指針として「正直、清潔、美心」と「人は自分の鏡」という原則を持っていることを明かしている。

上司である筒井雄一郎さんの素直な姿勢に感銘を受けた丹羽さんは、自身も誠実さを貫くことを大切にしている。

失敗を経験した際にも、社員を大切にする姿勢を貫いた筒井さんのサポートに支えられ、感謝の気持ちを述べている。

「このままでは会社が終わる」…4000億円の特別損失を計上した窮地で伊藤忠商事の元会長が決めた「驚きの覚悟」

元伊藤忠商事会長、そして民間人初の中国大使を務めた丹羽宇一郎さん。仕事に生涯を捧げてきた名経営者も85歳を迎え、人生の佳境に差し掛かった。『老いた今だから』では、歳を重ねた今だからこそ見えてきた日々の楽しみ方が書かれている。

※本記事は丹羽宇一郎『老いた今だから』から抜粋・編集したものです。

私には、生きていくうえでの基本原則、すなわち人生の指針が二つあります。

一つは、「正直、清潔、美心」です。「正直」は、人に対しても自分に対しても嘘をつかないこと。「清潔」は、人に対して誠実で、迷惑をかけたりしないこと。「美心」は、人を攻撃したり精神的に傷つけたりしない、人間としてきれいな心をもつことです。

もう一つは、「人は自分の鏡」。他人の行いの善悪を見て、自分の行いを反省することです。たとえば、人間は社会的立場が上になるほど、自分のことより目下の者を大切にしなければなりません。しかし多くの人は、権力やお金を手にすればするほど自分のことを大切にし、目下の者をないがしろにしがちです。他人のそういう行いを見たときには、「俺もそんなことをしていないだろうな」と自分自身を省みて、そうならないように自戒しなければいけないと思っています。

会社員時代に私が理想とし、尊敬していたのは、「正直、清潔、美心」を体現していた上司でした。その唯一の人が、筒井雄一郎さんです。

ニューヨーク駐在時代の私は、穀物相場で大失敗をしたことがあります。

その年は干魃が続き、ニューヨークの新聞の一面が、荒れ地と化した畑の写真付きで「深刻な大干魃」と報じました。三〇代半ばで相場予測に多少の自信がついてきた私は、その記事を見て大豆価格の高騰を確信し、大量に買い込みました。

ところが、予想されなかった降雨で状況は一転しました。米国農務省が「大豊作」との予測を出し、相場はたちまち大暴落。私は五〇〇万ドル近い含み損を抱えることになってしまったのです。その頃は一ドル約三〇〇円でしたから、日本円換算で約一五億円。当時の会社の税引き後の利益に匹敵する大損失となりました。そのとき、「ことの経緯を包み隠さず、すべて会社に報告しろ。いっさい隠しごとはするな」「おまえがクビになるなら、その前に俺が先にクビになる」「心配するな」と言って、本社からの叱責の矢面に立ってくれたのが、本社の食料部門上司だった筒井さんでした。私は、涙が出るほど嬉しかった。