「命捨てるな、モノ捨てろ!」…「建て物の耐震化」は間に合わなくても、いまからできる「自宅のシェルター化」

AI要約

(1)重いものは下に置け

今すぐできる防災対策再確認の第一歩は、高い場所に置いてある重いものや倒れそうなものを下に下すことである。...

(2)命捨てるな、モノ捨てろ!

近年発生した地震による負傷者の3~5割が、家具類の転倒・落下によるもの。...

(3)複数個所を複数器具で止める

2018年大阪北部地震の現地調査で「家具類は全てL金具や突っ張り棒で固定していたのですが」という高槻市の民家を見せてもらった。...

「命捨てるな、モノ捨てろ!」…「建て物の耐震化」は間に合わなくても、いまからできる「自宅のシェルター化」

(1)重いものは下に置け

今すぐできる防災対策再確認の第一歩は、高い場所に置いてある重いものや倒れそうなものを下に下すことである。阪神・淡路大震災のとき、タンスの上に置いてあったコインのぎっしり詰まった貯金箱(缶)が地震の大揺れで落下し、下で寝ていた幼児が重傷を負ったことがある。高いところに置いてある重いものや割れ物は大揺れで落下転倒すれば、家族を襲う凶器になる。子供さんのいる家庭では、大人目線ではそれほど高くない場所も、子供から見れば危ない高さの場合もある。子供目線になって整理整頓しなければならない。

(2)命捨てるな、モノ捨てろ!

近年発生した地震による負傷者の3~5割が、家具類の転倒・落下によるもの。また、地震後火災が発生しても、家具類で扉が塞がれると逃げられなくなってしまうこともある。能登半島地震では、大津波警報の発表もあり、閉じ込められた人が長時間救出されず、低体温症で死亡した例もある。

そこでお勧めしたいのが「防災大掃除」。生活しているといつの間にかモノが増えていく。まずは家族で話し合って〇月〇日は全員参加の「防災大掃除の日」と決める。その上で、家族で相談した不要なものは思い切ってリサイクルショップへ出すなどの断捨離をする。自分や家族の命より大切なモノなど滅多にないはず。「我が家を安全シェルターにするために、命捨てるなモノ捨てろ!」を合言葉にすべき。

(3)複数個所を複数器具で止める

2018年大阪北部地震の現地調査で「家具類は全てL金具や突っ張り棒で固定していたのですが」という高槻市の民家を見せてもらった。タンスの上に設置してあった突っ張り棒が、和室の天井に突き刺さったり、外れたりしてタンスは横倒しになっていた。

タンスの横に寝ていた息子さんが足を負傷したという。

壁にL金具で固定していた本棚もビスが抜けて大きく傾いてほかの家具を潰していた。突っ張り棒やL金具で家具類を固定して安心していたようだが、日本の和室の天井や壁はさほど丈夫につくられていない。もし突っ張り棒を使うのであれば、天井に当て板をして家具の天端の両側からしっかり当て板に固定し、さらにその家具類の両サイドを他の固定器具で止めれば、突っ張り棒も役立つ。家具類を壁に固定するときも当て板を壁の柱にしっかり取り付け、横だけでなく下部にも止める。つまり、家具や電化製品の転倒落下防止は、複数個所を複数器具で止めることがセオリーである。

(4)ガラス飛散防止フィルムを貼る

地震でガラスが飛散すると負傷確率が高くなる。一方、過去の地震でガラス飛散防止フィルムが貼ってあった窓は、ひびは入ってもガラスが飛び散っていないので、住むこともできる。地震によるけがを防ぐために、すぐにでもガラス飛散防止フィルムを貼ってほしい。防犯にも役に立つ。窓ガラスだけでなく、室内のドレッサー、洋服ダンスや食器戸棚などのガラスというガラスには飛散防止フィルムを貼る必要がある。

ガラス飛散防止フィルムはネットやホームセンターなどで販売されているが、確実に貼るには国家資格を保持する専門業者に依頼するといい。日本ウインドウ・フィルム工業会が実施するガラス用フィルム施工に関する学科及び実務試験に合格すると付与される「ガラス用フィルム施行技能士」という国家資格を持っている専門の職人に依頼すると安心だ。

(4)-1ガラス飛散防止フィルムを自分で貼る方法

もちろん、ガラス飛散防止フィルムを自分で貼ることもできる。まずはフィルムの選び方。一般的な窓ガラスのサイズであればガラス飛散防止フィルムの厚さは50ミクロン。高さが2メートルを超す窓ガラスであれば厚さ70ミクロン以上のフィルムを選ぶ。地震対策や防犯対策としては、JIS規格適合品を選ぶとよい。JIS規格適合品で強風などの飛来物による飛び散りを防ぎ衝撃に強いガラス飛散防止フィルムとしては「衝撃破壊対応ガラス飛散防止フィルム」。地震などによるガラスの変形による飛び散りを防ぎ、歪みに強いガラス飛散防止フィルムであれば「層間変位破壊対応ガラス飛散防止フィルム」を選ぶ。

ガラス飛散防止フィルムを貼るために準備するものは、ガラス飛散防止フィルム、中性洗剤、霧吹き、メジャー、定規、カッター、ゴムベラ、雑巾とタオル。

A. 石けん水を作る/水に対して中性洗剤を2~3%混ぜ、石けん水を作り(200ml~300ml)霧吹きにいれておく。

B. 窓をきれいにする/一見きれいに見えてもガラス表面には油やほこりがついているので、まずはきれいに拭き取る必要がある。ホコリや汚れが残っているとフィルムがうまく貼れない場合があるので、作った石けん水をガラス面に霧吹きでたっぷり吹きかけ、上から下に向かってゴムベラで汚れを落とす。

C. フィルムを窓のサイズに合わせて切る/フィルムを貼るガラスの大きさをメジャーできちんと測り、そのサイズよりも数cm大きいサイズでフィルムを切る。窓と同じサイズだと、あとから調整できない。

D. 窓に石けん水を吹きかける/きれいにしたガラス面に再度石けん水をたっぷり吹きかける。これによってガラスとフィルムを接着しやすくなる。

E. ガラス飛散防止フィルムから保護フィルムを剥がす/ガラスより数センチメートル大きく切ったガラス飛散防止フィルムの保護フィルムを剥がす。一人が持ってもう一人がはがす。保護フィルムを剥がすときもフィルムの接着面に石けん水をたっぷり吹きかける。

F. ガラス飛散防止フィルムを貼る/ガラス面とフィルム面に石鹸水が吹きかけられているので、フィルムがくっつく心配はないので、ゆっくり空気の気泡が入らないようにガラスにフィルムを貼り付ける。張り付けたフィルムの上から、また石鹸水を吹きかける。そして、ゴムベラを使い上から下へと空気と水分を押し出す。石鹸水が付いているので滑りやすく作業ができる。

G. ガラスからはみ出しているガラス飛散防止フィルムを切る/ガラスからはみ出しているガラス飛散防止フィルムに定規を当てながらカッターで切っていく。窓枠から2~3ミリメートル小さく切る(温度変化で伸び縮みしてもいいように)。

H. 水分を取り除く/最後に雑巾やタオルで水分を取り除いて完了。

(5)地震に強い建物にする

南海トラフ巨大地震から命を守るには、まずは大揺れに耐える建物に住む(する)ことが極めて重要であり、生死を分ける最優先防災対策と考えている。地震はみな同じではない。同じ海溝型地震でも震源域や岩盤の壊れ方によって揺れ方が大きく変わる可能性がある。主に陸から100キロメートル以上沖合・海底が震源域だった東日本大震災では、最大震度7を観測したのは宮城県栗原市の1市だけだった。

しかし、フィリピン海プレートが陸のプレートの下に沈み込んだ陸域の地下が想定震源域になっている南海トラフ巨大地震では、最大震度7の地域が10県153市町村に及ぶ。つまり、南海トラフ巨大地震が発生すれば、広い範囲で激しい揺れに見舞われ、それも約3分という長く大揺れが続くと推定されている。死者・行方不明者6,4377人、全壊10万4,906棟という凄まじい被害を出した阪神・淡路大震災でさえ、激しい揺れが続いていた時間は約15秒に過ぎない。それが、南海トラフ巨大地震では、その数倍も揺れ続ける可能性がある。激しい揺れが長く続けば、耐震性の低い建物の倒壊危険率は高まる。それは昼間発生するとは限らない、深夜、寝ているとき突然大揺れに襲われれば、冷静に安全な場所に退避する余裕はないかもしれない。耐震性の低い建物に住んでいれば、倒壊建物の下敷きになる可能性もある。

自分や家族の命を守るためには、まずは自宅やオフィスの耐震性・新しい耐震基準に適合しているかを確認する必要がある。そもそも耐震基準とは何か? 耐震基準とは、一定の強さの地震に建物が耐えられるよう、建築基準法や建築基準法施行令などの法令で定めた最低限満たすべき地震の耐震基準のことを指す。こうした耐震基準は大震災発生のたびに改正されてきた。その推移を5-2図に掲げる。

1920年(大正9年)、日本で最初となる建築に関する法律「市街地建築物法」が施行される。その規定は防火と衛生に主眼が置かれ、耐震に関する項目はなかった。その3年後の1923年、約20万5,000人の犠牲者を出す関東大震災が発生したため、翌1924年に「市街地建築物法」が改定され、初めて耐震基準が追加規定された。今からちょうど100年前に耐震基準が生まれたのである。それ以降も、大震災が発生するたびに改正され、新たに住宅を建築する場合は耐震基準を満たすことが義務付けられている。

その耐震基準について建築基準法は、「国民の生命、健康および財産の保護を図ることを目的とした『最低限の基準』」としている。家(建物)を守るというより、国民の「生命」「健康」「財産」保護のために地震で壊れにくい建物の基準ということになる。つまり、耐震基準は技術上の基準通り建てられた家が地震でも壊れず、そのままずっと住み続けることができるという保証ではない。

例えば5-2図にあるように、1950年の建築基準法制定時の耐震基準は、「震度5程度までの地震で倒壊なし、修復が可能な損壊程度」だった。その後、新潟地震や宮城県沖地震を受けて1981年の改正による「新耐震基準」でも、「震度6~震度7の大規模地震で倒壊なし、震度5強程度の中規模地震でひび割れ程度の軽度被害となる耐震強度」の強度としている。つまり、発生頻度の低い震度6強~震度7の大規模地震発生時、倒壊に至らない損壊は受容するが、発生頻度の高い震度5強程度の地震発生時、損壊はひび割れ程度の軽微被害でなければならないというもの。

従来は「新耐震基準(1981年5月31日)」の前か後かで、木造建物における一定の耐震性の有無を図る目安とされてきた。確かに1995年阪神・淡路大震災の時は、「新耐震基準」の建物被害は少なく、「旧耐震基準」の建物被害が際立って多かった。しかし、それが絶対ではなく「新耐震基準」の建物でも大破、倒壊などの被害も出ている。そうした知見・教訓を活かし2000年5月31日に改正された2000年基準が「新・新耐震基準」として、24年現在最新の耐震基準となっている。

この「新・新耐震基準」となった主な改正点は、従来の耐震基準に加え「地盤調査の実施と地盤に合わせた基礎設計」「柱と柱の主要接合部分には金物で補強」「耐力壁は単に壁量だけでなくバランスよく配置すること」などが盛り込まれ強化されている。その耐震強度の高さは2016年熊本地震で証明されている。熊本地震は益城町などで震度6弱以上の地震が3日間に7回発生する連続地震の試練を受けている。

熊本地震後、日本建築防災協会などで構成された「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」の報告でも、家屋被害の程度は建築時期で左右されると指摘している。この報告は震度6強以上の揺れに見舞われた地域の木造家屋約2000棟を対象に調査したもの。1981年5月31日以前の「旧耐震基準」で建てられた木造家屋では、「全壊・大破」が45.7%。1981年6月1日~2000年5月31日までの「新耐震基準」で建築されたものでも、「全壊・大破」が18.4%に上る。一方、2000年6月1日以降に「2000年基準」で建てられた家屋では、「全壊・大破」は6%に過ぎない。つまり、2000年基準の建物の耐震強度の高さが証明されたのである。

耐震性の高い鉄筋コンクリートの学校やマンションであれば、「地震! 机の下へ」でよいが、耐震強度の低い古い木造家屋にいた場合、家がつぶれれば机もつぶれる可能性があるので、より安全な場所か、危険であれば外へ脱出する方が良い。とくに木造家屋では建築時期が地震時行動の目安になる。

そして、2000年5月31日以前の木造建物は、耐震診断をし必要であれば耐震改修をするとよい。自治体ごとに耐震診断や改修費用に対する助成措置もあるので、担当部署に相談することが大切。

次回は、大津波から身を守る知識と行動、長期停電・断水・ガス停止・流通混乱などに備える防災備蓄について考察する。