総裁レース離脱:岸田の示した「意地」とは

AI要約

岸田文雄首相が自民党総裁選への不出馬を表明した。岸田は組織の信頼回復のため身を引く決断を下した。

菅義偉首相との出馬断念のパターンが似ているが、岸田は組織の長としての責任をしっかりと取る姿勢を見せた。

岸田は総裁選に向けた布石を進めていたが、何かが起きて再選意欲を打ち砕かれた可能性が示唆されている。

総裁レース離脱:岸田の示した「意地」とは

古賀 攻

岸田文雄首相が14日、9月にある自民党総裁選への不出馬を表明した。3年前(2021年)の8月26日、当時の菅義偉首相に「わが国の民主主義が危機に瀕している」と挑戦状をたたき付けた岸田だが、同じ批判の渦に進路をふさがれた。(文中敬称略)

14日午前11時半から急きょ開かれた記者会見の冒頭、岸田は意外とさばさばした表情で重大な結論を口にした。「自民党が変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩は、私が身を引くことであります。私は来る総裁選には出馬致しません」

外形的には自民党内の「首相おろし」の声に抗しきれず、総裁選を目前に控えて出馬断念に追い込まれた菅と同じパターンだ。菅がコロナ対策の不手際で、岸田が裏金問題の中途半端な処理で国民から見放され、内閣支持率を最低レベルに落としていた構図も似ている。

ただし、菅が不出馬表明に際して、コロナ対策と総裁選はいずれも膨大なエネルギーを要するから両立できないとの「屁理屈(へりくつ)」で悔しさをにじませたのに対し、岸田が「組織の長として責任を取ることにいささかの躊躇(ちゅうちょ)もありません」と言い切った点は異なる。

では、岸田はどの段階で不出馬の意向を固めたのか。

岸田と連日のように面会してきた政府高官の一人は、最近まで「総理は間違いなく再選を狙っている。会って話すと意欲がびんびんに伝わってくる」と語っていた。この高官によると、仮に世論調査で人気ナンバー1の元幹事長・石破茂との対決になったとしても、岸田の手による衆院解散・総選挙をしない条件を出せば、国会議員票で岸田の優位が見込めたという。

岸田は通常国会の閉幕に伴う6月21日の記者会見で、唐突に物価高対策として電気・ガス料金の補助復活や、年金生活者などへの臨時給付金の支給など総裁選をまたぐ新規の政策をぶち上げた。派閥解消を唱えてきたにもかかわらず、国会閉会後は出身派閥の岸田派議員と頻繁に会合を開く様子も報じられている。これらが総裁再選に向けた布石だったとしたら、旺盛な再選意欲を打ち砕く何かが最近あったとの説明が必要になってくる。

14日の記者会見で「決断のタイミング」を問われた岸田は、「政治家としての意地を示したうえで、自民党の信頼回復のためには身を引かなければならないということで今回の決断をした」とだけ述べ、直接には答えなかった。

しかし、質疑に先立つスピーチで岸田は「今回の事案(裏金事件)が発生した当初から思い定め、心に期してきたところ」と語っている。これが正直な回想だとしたら、岸田は早い段階で総裁レースからの離脱を決めていたものの、「政治家としての意地」であえて意欲を振りまいてきたというストーリーになる。