昨年も浸水したエリアに「有料老人ホーム」建設計画 制限する法令なく「ハザードマップの意味がない」と住民懸念

AI要約

福岡市南区弥永2丁目地区で有料老人ホーム建設計画が浮上。建設予定地は危険なエリアで住民から反対の声が上がる。

住民はハザードマップに基づく建設制限法令の欠如を指摘し、浸水エリアに老人ホームを建設する問題に疑問を持っている。

全国的に浸水想定区域に立地する施設は多く、福岡市でも同様の事例がある。市は災害に対する安全性を考慮するよう求めているが、法令による制約はない。

昨年も浸水したエリアに「有料老人ホーム」建設計画 制限する法令なく「ハザードマップの意味がない」と住民懸念

福岡市がハザードマップで「家屋倒壊等氾濫想定区域」に指定する同市南区弥永2丁目地区で有料老人ホームなどを建設する計画が浮上している。建設予定地は那珂川沿いにあり、市が最大3~5メートル未満浸水する危険性があると警告するエリア。だが、行政による開発規制は難しく、住民から「ハザードマップの意味がない」などの声が上がっている。(千田恒弥)

「昨年7月の大雨の際にも那珂川から越水して建設予定地の田畑に濁流が流れ込んで浸水した。お年寄りや体の不自由な人たちの命を預かる施設を建設する場所としては不適切だ。無責任ではないか」

弥永2丁目町内会長の大賀和男さんは昨年7月に浸水した建設予定地を歩きながら、事業者の姿勢に疑問を投げかけた。伊藤啓司さんも同地区が住宅地として多くの人たちを受け入れてきた経緯に触れながら、「私たちはいじわるをしているわけではない。純粋に入所する方々のことが心配なのだ」と話した。

■建設制限の法令なし

計画が持ち上がったのは昨年9月ごろ。大賀さんは建設予定地に立つ看板の前で「今回の計画はこれで知った」と事業者への不信感を募らせた。昨年11月には町内会の強い要請で事業者による説明会が開かれ、有料老人ホーム(定員90人)とホスピス施設(定員34人)の建設計画が示された。住民からは浸水エリアであることなどを理由に反対意見が多数出たという。

住民の指摘はもっともに聞こえるが、ハザードマップに基づいて住宅や民間施設の建設を制限する法令はない。ハザードマップは住民への啓蒙(けいもう)的な位置づけに過ぎず、浸水想定区域に立地する老人ホームは全国的に少なくない。

厚生労働省と国土交通省が令和2年10月に行った全国の特別養護老人ホームなどの立地条件の実態調査によると、洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域のいずれかにある施設は全体の約43%を占めた。福岡市内でも浸水エリアに立地する施設は複数あるようだ。

福岡市での有料老人ホームの設置は届け出制で、同市高齢社会部事業者指導課は「高齢者へのサービス実態があれば、行政が設置を妨げることは法令上できない」という。立地について市は指導指針の中で「災害に対する安全性を考慮するよう」求めているが、同課は「言い方として『浸水想定区域に建ててはいけない』とは言っていない」と説明した。