「最も金メダルに近いアスリート」藤波朱理選手 “触らせない”レスリング【パリ五輪】
5年前、未来の“吉田沙保里”と呼ばれる逸材、藤波朱理選手が注目を集める。
父親である俊一さんの指導のもと、日本体育大学に進学し五輪出場を目指す朱理選手の姿を追う。
朱理選手の強さの秘密は“触らせない”レスリングにあり、公式戦133連勝を達成するなど圧倒的な成績を残している。
「未来の“吉田沙保里”がいる」そんな話を耳にしたのは、今から5年前だった。
アテネ五輪前から、女子レスリングの歴代メダリストを取材してきた私は、早速、三重県にある、いなべ総合学園高校のレスリング道場に向かった。
そこで出迎えてくれたのは、ショートカットでスラッとした、くったくのない笑顔の藤波朱理選手、その人だった。高校1年生だった彼女は、すでに世界大会でも優勝するなど頭角を現していた。強さの秘密は何なのか。私は取材を重ねていった。
■指導者は名選手だった父
ソウル五輪の代表候補だった父親の俊一さんは、監督として地元のレスリングチームを率いながら、朱理選手を4歳の頃から指導してきた。
そして朱理選手が日本体育大学に進学すると、東京で同居しながら、二人三脚で五輪出場を目指してきた。
私は、吉田沙保里選手とコーチだった父親の栄勝さんを思い出した。
父だからこそできる教えがあり、一方で、やりにくさもあったかもしれない。時に自宅で、衝突することもあったという。
パリオリンピック™直前、父親の俊一さんは私にこっそり話してくれた。「最近は娘のストレスのサンドバッグになっていますよ」と。大舞台のプレッシャーを、隠さず、ぶつけられる父の存在は大きかったと思う。
■“触らせない”レスリング
これまでの取材で私は、五輪4連覇の伊調馨選手、リオ五輪金メダリストの登坂絵莉選手や土性沙羅選手らの強さを体感してきた。
吉田沙保里選手には高速タックルを、朱理選手に日体大で指導している伊調選手には、得意技のアンクルホールドを決められた。彼女たちの圧倒的なスピード、パワーには毎回驚かされた。
朱理選手はどうだったのか。そこには、強さを実感できない「強さ」があった。強さを実感できない理由は、相手に“体を触らせない”レスリングをするからだ。
組んでみると、パワーや技術力を体感できるが、それを感じることができない。ここに彼女の強さの秘密がある。“触らせない”ということは、ポイントを取らせない。つまり失点がないのだ。
だからこそ、彼女は負けない。究極の「相手に体を触らせないレスリング」で、中学2年生だった2017年から公式戦133連勝が続いている。