「誰でも写真を撮れる時代だから、誰にも撮れない写真を」…山梨県の”謎”のローカル自販機「ハッピードリンクショップ」を撮り続けた「とある写真家の”狂気”」

AI要約

写真家の吉村和敏氏がハッピードリンクショップの撮影プロジェクトを始める過程が紹介される。

吉村氏が自販機の数の多さに驚きながらも、コンプリートする熱意で全店舗を撮影を決意する。

ハッピードリンクショップ撮影のために中古軽自動車を買い、200万円以上の撮影費用をかけながらも、熱意を持ってプロジェクトを進める。

「誰でも写真を撮れる時代だから、誰にも撮れない写真を」…山梨県の”謎”のローカル自販機「ハッピードリンクショップ」を撮り続けた「とある写真家の”狂気”」

フローレンが運営するハッピードリンクショップは、山梨県民と長野県民であれば誰もが知る自動販売機だ。その設置エリアは1000カ所以上。生活道路や農道、山道などに多くあり、地元民やドライバーに親しまれている。

前編記事『あ、ここにもある…!山梨・長野に根付く“謎”のローカル自販機「ハッピードリンクショップ」 “フツー”なのにファンが多い「意外すぎる理由」』では、そんなハッピードリンクショップのビジネスモデルを解説している。

遡ること4年前。この特徴的な自販機を巡って、運営元のフローレン社内がザワついた。突如、全店舗を撮影したいという写真家が現れたのだ。

前代未聞の申し入れをしたのは、吉村和敏氏。世界各国の風光明媚な土地を撮影した写真集など多数出版する、キャリア20年超のベテラン写真家だ。ハッピードリンクショップを撮影しようと思ったきっかけについて、吉村氏は次のように語る(以下、「」内は同氏)。

「もともと僕、コンプリートするのが大好きなんです。例えば、フランス、イタリア、ベルギー、スペイン各国で最も美しい村というのが認定されているのですが、それらをすべて撮影した写真集もこれまで出したりしています。

でも、コロナ禍に入ってからはそういった海外の撮影ができなくなってしまったんですよね。じゃあこの期間を使って日本らしい風景を撮ろうと思って。ふと思い出したのがハッピードリンクショップだったんです」

フローレンは本社がある山梨以外に、長野と群馬でハッピードリンクショップを展開している。長野県松本市出身の吉村氏も、以前からその存在には注目していたという。

「これまで世界中を巡りましたが、ここまで自販機が普及している国を日本以外に見たことがありません。治安が良いからこそ成立しているビジネスで、すでに日本という国の風景の一部にもなっている。1000店舗以上を展開するハッピードリンクショップは、まさに日本文化を象徴するひとつ。絶対に撮る価値があるな、と」

吉村氏がフローレンに撮影許可をもらい、このプロジェクトをスタートさせたのは2020年9月のこと。スポンサーはおらず、撮影費用は全て持ち出しだ。手始めに購入したのは中古の軽自動車だったという。

「最初は普段仕事で使っている乗用車で巡っていたんですよ。でもハッピードリンクショップって細い道や路地裏にあるケースがけっこう多い。小回りが効く軽自動車じゃないと無理だと思って、ボロボロだったスバルのR2を約20万円で購入しました。いわゆる撮影の相棒ですよね。

総額いくら使ったか?うーん、少なくとも200万円はかかっていると思います。でも海外の撮影では平気で1000万円くらい使いますから、それに比べたら全然安いですよ」

ハッピードリンクショップの数はとにかく膨大だ。フローレンから店舗リストの提供を受けた吉村氏は、気の遠くなるような撮影を地道に進めていった。一度の撮影で15~20店舗を巡っていったという。

「フローレンさんには『全部撮ります!』と威勢の良いことを言ったものの、数が数ですからね。本当に撮れるのかなという不安も当然ありましたよ(笑)。いただいた店のリストもあくまで管理用なので、記載されているのは住所ではなく、すべて地番。ナビやGoogleマップに入れても出てきません。設置場所を探すだけでも相当大変でした」