あ、ここにもある…!山梨・長野に根付く”謎”のローカル自販機「ハッピードリンクショップ」 ”フツー”なのにファンが多い「意外すぎる理由」

AI要約

山梨県と長野県を中心に展開する「ハッピードリンクショップ」は、自販機のコンビニとして生まれた企業の切実な事情から生まれた。売上の約6割を稼ぐ勝ち筋として、車通りの少ないエリアに重点を置いている。

国内の自販機市場は飽和状態であり、競合店が多い国道沿いではハッピードリンクショップの売上は上がりにくい。逆に、生活道路や農道、山道などの車通りの少ない場所での展開が成功している。

価格設定の面でも、ハッピードリンクショップは相場よりも10~20円ほど安い価格で飲料を提供しており、周りに競合店が少ないことと合わせて、客の利用を促進している。

あ、ここにもある…!山梨・長野に根付く”謎”のローカル自販機「ハッピードリンクショップ」 ”フツー”なのにファンが多い「意外すぎる理由」

ここにも、あそこにも……。

山梨県内をクルマで走っていると、たびたび見かける道路脇の不思議な看板。青い長方形には、黄色でこう書かれている。

「ハッピードリンクショップ」

何かの店があるかと思いきや、そこにあるのはクルマを何台か停められそうな、だだっ広い敷地と数台の自動販売機。初めて遭遇する人は若干戸惑うかもしれない。

だが安心してほしい。これぞハッピードリンクショップなのだ。

「基本的にハッピードリンクショップには3台以上の自販機が並び、クルマが停められる広いスペースも設けています。まあ、ドライブインのようなものですね。現在1000店舗以上を展開中です」

そう語るのは、運営元のフローレンで常務取締役を務める菅野照彦氏だ(以下、「」内は菅野氏)。

ハッピードリンクショップの大半は、同社の本社所在地である山梨県と隣接する長野県に集中しており、それぞれ約500ずつ存在している。これらのエリアに比べれば少ないが、群馬県でも展開中だ。

とりわけ山梨、長野の両県での認知度は高く、「おそらくほとんどの県民の方に知っていただけているはず……」と菅野氏は遠慮がちに笑う。

ただ、疑問も湧く。一体なにがハッピーで、どこがショップなのか。

「どの年代の方にも覚えてもらいたくて、このネーミングにしました。あんまりカッコつけた名前にしても……ねえ? ドリンクを飲んでハッピーになる。シンプルでわかりやすいでしょう。

そもそものコンセプトは、自販機のコンビニなんです。だから必ず3台以上は置いていて、品揃えを充実させています。当社としてはあくまで店舗という認識なのでショップと名付けました」

名前こそ、どこか牧歌的な印象を持つかもしれない。しかしその誕生の背景には、自販機業界での生き残りをかけた、企業の切実な事情があった――。

フローレンは1973年の創業以来、自販機の運営管理事業で大きく成長してきた。しかしコンビニや大型スーパー、ドラッグストアの台頭で最大の取引先であった個人商店の数が激減。

窮地に立たされた同社が2003年にスタートさせたのが、ハッピードリンクショップだった。具体的な数字は非公表とのことだが、「現在、売上全体の約6割を稼ぎ、利益もしっかり出ている」と菅野氏は明かす。起死回生の一手が見事にハマった形だ。

しかし自販機ビジネス全体を取り巻く環境は、いまなお厳しい。日本自動販売システム機械工業会によれば、国内に設置されている清涼飲料水の自販機は2023年末時点で197万7200台。年々台数は減っているとはいえ、全国津々浦々に設置されている状況はインフラに近い。裏を返せば、飽和状態とも言えよう。いまやどこにでもあるコンビニの存在も脅威だ。

そんな中、ハッピードリンクショップは勝ち筋を見つける。生活道路や農道、山道など、車通りの少ないエリアに重点を置いたのだ。

「山梨、長野、群馬はいずれもクルマ社会なので、交通量の多い国道沿いは確かに人目につきやすい。しかしこれまでの試行錯誤の結果、こうしたエリアに設置しても自販機の売上はあまり上がらないことが判明しました。気軽に購入できるという自販機の最大の強みが失われ、またコンビニなどの競合店も多いからです。

国道はガードレールや縁石、歩道がきちんと整備されているので進入できる場所が限られます。クルマの流れにも気を遣わなければいけません。たとえ小さな障害だとしても自販機にとっては天敵。だったら飲料以外の品揃えも豊富なコンビニに行こうと思うのが消費者心理なのです」

一方、生活道路や農道、山道であればその心配は無用だ。ノーストレスでスッと立ち寄れ、素早く飲み物が買える。さらに競合店も少ない。実際、ハッピードリンクショップの中で売上が高いのは、周りに民家がほとんどない店舗だという。仕事やドライブの最中に、休憩目的で利用する客も多いそうだ。

そして、そんなハッピードリンクショップの競争力をさらに高めているのが、価格設定だ。扱う飲料の多くが相場より10~20円ほど安い。では、なぜそのような芸当が可能なのか。