【虎に翼】予想をはるかに上回る傑作、いまや10代も釘付け、戦争と憲法14条を巧みに描く恐るべき脚本力

AI要約

『虎に翼』は朝ドラでありながら、ユーモアを散りばめながら「法の下の平等」をテーマに掲げたストーリーである。視聴率も高く、特に10代の支持が厚い。

物語は細部まで緻密に構成されており、2カ月かけて伏線を回収する手法が使われている。脚本家の吉田恵里香氏の才能が光る作品である。

主人公の佐田寅子を中心に、寅子の周囲の仲間たちとの物語が展開されており、様々な立場や環境からの視点が描かれている。

■ ユーモアを散りばめながらも「法の下の平等」に徹底的にこだわるストーリー

 いよいよ終盤に差し掛かった朝ドラことNHK連続テレビ小説『虎に翼』の人気が相変わらず高い。最近の週平均の個人視聴率は9.6~9.8%を推移。前作『ブギウギ』の全回平均の個人視聴率9.0%を大きく超えるのは確実だ(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)。

 朝ドラの主なファンは50代以上だが、『虎に翼』に限ると視聴率を上積みしているのは10代。T層(男女13~19歳)と呼ばれる視聴者層である。T層の個人視聴率は2%前後もある。通常の朝ドラの2倍からそれ以上だ。この時間帯のどの番組より観られている。

 夏休みに入った7月22日以降はT層の数字がさらに上昇している。同24日の個人視聴率は3.0%を記録した。同じ24日午後9時からのテレビ朝日『科捜研の女』は同0.8%、同10時からのフジテレビ『新宿野戦病院』は同1.3%だったから、両ドラマを超えた。

 それどころではない。この日放送された全番組の中で、T層に一番観られたのは『虎に翼』だった。驚くべき支持の高さなのである。

 10代が好むわけは物語のテンポが良く、センスの良いユーモアが散りばめられているからだろう。もっとも、第1の理由は違うと見る。憲法第14条「法の下の平等」をメインテーマとし、徹底的に拘っているからに違いない。

 大人だって第14条が嫌いな人はほとんどいないはず。しかし、年齢を重ねるに連れ、世の中の不平等をあきらめてしまいがちだ。差別に対し、見て見ぬ振りをしてしまうこともあるだろう。

 理想に燃える10代は違う。平等の実現を求めているはずだ。大人たちがつくってしまった格差社会や差別などが我慢ならないのではないか。だから、平等を追求する主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)の物語に惹かれるのだろう。

■ 2カ月かけて伏線回収

 4月1日放送の第1回は寅子が第14条の載った新聞を食い入るように見つめる場面から始まった。最初にメインテーマを明かした。1946年11年のことである。一部ミステリーと同じく、倒叙法が取られた。直後に物語は1931年に遡った。

 寅子は弁護士になるために明律大女子部法科に入った。そこで朝鮮人のチェ・ヒャンスク(ハ・ヨンス)、貧しい家の出身で肉親の愛を知らない山田よね(土居志央梨)、年上で3人の子供がいる大庭梅子(平岩紙)、華族の桜川涼子(桜井ユキ)と出会い、仲間になる。涼子の付き人の玉(羽瀬川なぎ)も仲間に迎え入れた。

 そのまま時間は流れ、5月30日放送の第44回で寅子が第14条を見つめる場面に戻った。それまでは長い伏線だった。NHKも「これからが本番」と謳っていた。育った環境や立場が違う寅子たちは第14条を得たことで、どう変わるのか。

 凝りに凝った構成である。最近は若手脚本家を簡単に天才と持ち上げてしまう風潮があるが、この作品を書いている吉田恵里香氏(36)は本物の天才である。脚本界の直木賞とも称される向田邦子賞も2021年度に史上最年少で獲った。