「ゴジラ-1.0」山崎貴監督が描く戦争の正体 「原爆」映画作りに意欲「目を背けちゃいけないテーマ」

AI要約

山崎監督が戦争をテーマにした作品に興味を持つ理由やVFXを活用したメッセージ伝達を語る。

監督がVFXを使った映像制作における新たな可能性や過去の時代を再現する魅力について述べる。

将来的には原爆をテーマにした作品に挑戦する意向を明かし、その重要性について考察する。

「ゴジラ-1.0」山崎貴監督が描く戦争の正体 「原爆」映画作りに意欲「目を背けちゃいけないテーマ」

 米アカデミー賞の視覚効果賞に輝いた映画「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」や「ALWAYS 三丁目の夕日」で知られる山崎貴監督(60)。その映像世界を紹介する特別展が広島県呉市の大和ミュージアムで開かれている。戦争を描く意味やVFX(視覚効果)を駆使して伝えたいメッセージとは―。山崎監督に聞いた。

 ―「永遠の0」「アルキメデスの大戦」など、近年は戦争をテーマにした作品が多いですね。

 自分の中で戦争が非常に大きなテーマとして浮かび上がっているのは確かだ。僕の小さい頃、戦争を描いた漫画が結構たくさんあって、読むと恐ろしかった。怖いものって「正体」を知れば怖くなくなることが多い。戦争って一体何なのか、「正体」を探ろうとしたのが出発点。だからこそ、あの時代への興味が尽きない。

 ―「正体」は分かりましたか。

 考えれば考えるほど、余計に分からなくなっている。ただ、歴史の本を読むと、人類の祖先ホモ・サピエンスが同時期にいたネアンデルタール人に遺伝的に勝利し、世界を席巻できたのは「好戦的だったから」という説がある。残念なことだが、戦争をするのは「人類の業」のようなものではないかと思い至った。

 実際、人類の歴史は覇権を握ろうとする国家間の戦争や紛争で埋め尽くされている。そんな愚かしさを映像で立体的に表現することで「戦争にかじを切ったらこんなことになる」「これだけ多くの人が犠牲になる」とリアルに感じてほしい。特に為政者に見せたいんですよ。何となく、ではなく具体的に認識してもらうためにも。

 ―VFXを使った緻密な映像制作が得意な監督ならではですね。

 戦中や戦後、「ALWAYS」で描いた高度成長期の昭和など、直接見ることができない「過去」を映像として届けることができるのはVFXの利点。タイムマシンに乗って撮影してきたかのように、その場にいた人しか見ることができなかった景色を再現し、追体験してもらえる。

 特に「昭和」を自分の記憶の中に持っている人たちにすごく響いていて「当時をまた鮮明に見られるなんて」と懐かしむ声が多かった。VFXという技術の使い道を考えたときに、あの時代は面白いフィールドだと気付いた。

 ―「アルキメデスの大戦」では戦艦大和や空母が登場します。大和に引きつけられる理由は何でしょうか。

 大和の沈没が、太平洋戦争の終わる一つのきっかけになったと思う。当時の最先端技術の集大成で世界最大の戦艦だったのに、大艦巨砲主義を固守し航空機時代の到来を見通せなかった。この一見無駄とも思える「時代遅れの船」に何らかの意味を持たせたい、という気持ちはずっとあった。

 沖縄特攻作戦でも為政者や海軍の偉い人たちのメンツのために出撃させられ、多くの若い命が失われた。悲しい運命の象徴のような船で、だからこそ「アルキメデスの大戦」ではその最期をつぶさに描き切りたいと思った。これまでの映像作品では撃沈されるシーンを割愛することが多く、悲惨さをきっちり描いたものってほとんどなかったので。

 ―映像制作の参考にするため大和ミュージアムを何度も訪れたそうですね。

 戦艦大和の10分の1模型はもちろん、ミュージアムに展示されている模型の精密さには目を見張ります。僕自身、小さい頃から戦艦のプラモデルが大好きでだった。中でも「大和」は別格で、玩具店の奥にでーんと置かれている憧れの存在。ちなみに好きな戦艦ランキングは「大和」「赤城」「高雄」「雪風」の順です。

 今回は特に戦争にフォーカスした展示会なので、大和を建造した呉の地で開催する意味は大きい。戦争について改めて考えるきっかけになればいいと願っている。

 ―今後の作品ではどんなことに挑戦したいですか。

 いつかは原爆をテーマにした作品に取り組んでみたいという思いはある。実はこの特別展が開幕する前日に、広島市の平和記念公園に行ったんですよ。原爆ドームや原爆資料館を見て衝撃を受けた。この惨状を忘れないために、VFXを使ってリアルな映像を再現できないかと…。作り手の僕の精神状態が持つか自信はないが、目を背けちゃいけないテーマだと思っている。

 長野県松本市生まれ。幼少期に映画「スターウォーズ」や「未知との遭遇」と出合い、特撮の道に進むことを決意。阿佐ヶ谷美術専門学校卒。2000年に監督デビュー。最新作「ゴジラ―1・0」は全米の歴代邦画実写作品興収1位になり、海外でも高評価を受ける。