物価高でフードバンク事業「曲がり角」 求められる“仕組み”とは

AI要約

フードバンクの運営事業者が食品不足に悩んでいる状況が続いている。

食品ロス削減の取り組みが進んでいる中、企業からの食品寄付が減少しており、生活困窮者への支援が困難になっている。

フードバンク事業に関係する人々が懸念を表明し、食品ロスの問題解決が急務であると訴えている。

物価高でフードバンク事業「曲がり角」 求められる“仕組み”とは

 企業などから寄せられた食品を生活困窮者に届けるフードバンクの運営事業者が、食品不足にあえいでいる。企業の環境・物価高対策に伴う食品ロス削減の取り組みが進んでいるためだ。フードバンク事業について関係者は「曲がり角に来ている」と不安を漏らす。

 フードバンクを運営するNPO法人「セカンドハーベスト名古屋」(名古屋市北区)によると、2020年から22年までは食品の寄付が毎年500トンを超えていた。だが、22年ごろから減少し、23年には453トン、今年は400トンを切る見通しだという。

 20年の新型コロナ流行期は、寄付量と受け取り希望者がいずれも前年よりも増えた。だが、23年以降は寄付量が右肩下がりなのに対し、受け取り希望者は物価高などに伴う生活苦を背景に、団体、個人いずれも増加の一途をたどる。

 セカンドハーベスト名古屋の倉庫を訪れると、22年までは所狭しと食品が積まれていた棚は「スカスカ」(同法人スタッフ)だった。不足分を補おうと、寄付金を食品購入費に充てているが、団体向けの支援量は現在、22年の3分の2ほどに落ち込む。自治体との連携協定に基づき個人向けの支援量は減らせず、やむなく団体支援分を削減しているという。

 セカンドハーベスト名古屋から食糧支援を受ける団体の一つ、名古屋市港区の子ども食堂「わ」では、ここ数カ月で他の企業や団体からの食料品提供も減少した。食堂を運営する二村ジョンスンさん(59)は「これが続くとどうすればよいのか」と戸惑いを見せる。

 一方、食品ロスの削減に力を入れる食品メーカーでは在庫を生まないよう売れ行きの悪い商品の製造をやめるなど「無駄」を削減する動きが進む。原材料費やエネルギー価格の高騰に伴うコスト削減の一環で、フードバンク向けの食品保管・輸送費が削減対象となるケースもあるという。

 愛知県内のある食品メーカーの担当者は「食品ロスを出すのは本来あってはいけないこと。(食品の寄付は)たまたま出たものを有効活用していただけ」と明かす。

 こうした状況に、セカンドハーベスト名古屋の前川行弘理事長(76)は「食品ロスの提供を前提としたフードバンクは曲がり角に来ている。このままでは生活困窮者の支援が行き届かなくなる」と危機感を募らせる。

 食品の寄付を巡っては今年5月、国や地方自治体、民間事業者らが官民協議会を設立。食品寄付の促進に向けた仕組みづくりが始まっている。愛知県内の食品メーカー担当者は「(企業などによる)食品提供の取り組みを行政が評価する場があれば、自社商品のブランディングにもなる」と話す。

 セカンドハーベスト名古屋では現在、家庭で余った食品を持ち寄り、フードバンク団体に寄付してもらう「フードドライブ」活動に力を入れる。スポーツチームと連携して試合会場で食品を集めるなど食品確保に努めている。寄付などの問い合わせは電話052・913・6280で、平日午前9時から午後5時まで受け付けている。【荒木映美】