【社説】公益通報制度 行政機関の体制は十分か

AI要約

兵庫県庁を揺るがしている問題について、公益通報者保護法に反する不当な対応が疑われている。

内部調査の中立性が疑われる中、公益通報者の保護に関する問題が浮上している。

公益通報制度を適切に運用して行政機関の問題解決に役立てる必要がある。

【社説】公益通報制度 行政機関の体制は十分か

 職場の不正を告発した人は公益通報者として保護され、解雇や降格などの不利益を被ることはない。公益通報者保護法で定めている。

 兵庫県庁を揺るがしている問題は、このルールに反している疑いがある。

 3月に当時の幹部職員が斎藤元彦知事のパワハラ、事業者からの物品の受け取りなど7項目の疑惑を告発文にまとめ、報道機関や県議に配布した。知事は「うそ八百」と非難し、内部調査も「誹謗(ひぼう)中傷」と結論づけて停職3カ月の処分を下した。

 この職員は今月上旬に亡くなった。自死とみられる。

 見過ごせないのは、告発文を配った後、県の公益通報窓口に通報していることだ。

 県はこれを公益通報と認めず、法律に沿った調査をせずに処分を決めた。公益通報者の保護に反する不適切な対応ではなかったか。

 その後、告発された疑惑を裏付ける証言が次々に表面化した。県の内部調査は中立性が疑われている。

 事実関係の解明が必要だ。県議会は調査特別委員会(百条委員会)を設置している。告発内容の真偽だけでなく、公益通報の手続きを取らなかった県の対応を検証しなくてはならない。

 副知事は県政混乱の責任を取り、今月末で辞職すると表明した。知事は続投する考えを示したものの疑惑は深まるばかりだ。告発に対する初動の誤りが招いた事態と指摘されても仕方あるまい。

 不正行為は行政機関でも企業でも起こる。告発するのは勇気が要るだろうし、不当な人事を恐れるかもしれない。そうした心配をしなくてもいいように公益通報者保護法は制定された。

 この法律は行政機関を含む事業者に、公益通報に対応する職員や窓口の設置、調査などを義務付ける。従業員が300人以下の中小事業者は努力義務とした。通報先は行政機関だけでなく、報道機関も認められている。

 公益通報は不正を内部でうやむやにせず、行政や経済活動を健全に機能させる上で有用だ。不正が明るみに出たことが経営を改善するきっかけになる場合もあるだろう。

 公益通報を受ける立場の行政機関は当然ながら、法の趣旨を十分に認識しているはずだ。しかし兵庫県庁の混乱を見ると心もとない。

 鹿児島県警にも疑念の目が向けられている。警察官の犯罪を野川明輝本部長が隠蔽(いんぺい)しようとしたとして、関係資料をネットメディアに提供した前生活安全部長が国家公務員法(守秘義務)違反の容疑で逮捕、起訴された。

 前部長の弁護士によると、資料提供は公益通報に当たると、公判で主張するという。

 公益通報制度を形骸化させてはならない。とりわけ行政機関は兵庫県などの問題を傍観せず、制度を適切に運用しているかどうかを点検してもらいたい。