「モノ扱い」「消耗品扱い」 大学非常勤講師の境遇

AI要約

研究や教育の現場で非正規が増えることがもたらす問題について、東京大学教職員組合副執行委員長の佐々木彈さんのコメントを交えながら解説されています。

非常勤講師の待遇、非正規化の進行、教員の年齢構成などが問題点として取り上げられており、教育環境が持続可能性を欠く状況になっていることが議論されています。

大学が非正規化や劣悪な職場環境を抱えることが社会全体に与える影響や、東京地区大学教職員組合協議会を通じた取り組みなど、解決に向けたアプローチも提示されています。

「モノ扱い」「消耗品扱い」 大学非常勤講師の境遇

 継続性が求められるはずの研究や教育の現場で非正規が増えることがどんな意味を持つか。東京大学社会科学研究所教授で、東京大学教職員組合副執行委員長の佐々木彈さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】

 ◇ ◇ ◇ ◇

 ――非正規の教員である非常勤講師の問題は、佐々木さんたちの無期転換の取り組みもあり、かなり知られるようになっています。

 ◆私自身もある私立大学で非常勤講師をしていたので、非常勤講師がどのような扱いを受けるかは身をもって知っています。16年の間に4回雇い止めになりました。しかも、最後の雇い止めは、新年度が始まって1週間たってから知らされました。ありえないことです。

 私のように、東大社研である程度長く常勤の教員をやっている人間に対しても、このような、横面を張るような仕打ちをするのです。大学人として大丈夫なのでしょうか。大学というものを理解しているのでしょうか。

 これはあまりにもひどいのですが、似たような例はわりとよくあるのです。

 ◇ぞんざいに扱う

 ――働く人への敬意が感じられません。

 ◆非常勤講師を、人ではなくモノとして、ぞんざいに扱うくせがついてしまっています。感覚がまひしています。消耗品扱いです。担当講義を突然、半分に減らし、給与も半額にするなどの話は珍しくありません。

 もともと高い給与ではありません。私は常勤の仕事がありますが、非常勤しかやっていない人も多いのです。フリーランスや語学教師をしながら非常勤講師をしている人もいます。この人たちにとっては突然、生計を支える主な収入の一部がなくなることを意味します。とても深刻な問題です。

 もう一つは年齢の問題です。非正規で採用されても正規になるのはかなりの年齢になってからです。私が正規の職を得たのは36歳の時です。遅いと思われるでしょうが、今はさらに遅くなっています。40歳を超える人も珍しくありません。大学では30代、40代の教員の非正規率が高くなっています。

 ◇兵糧攻め

 ――大学は厳しい状況にあります。

 ◆大学だけではありません。小中高校も同じです。兵糧攻めに遭っています。国立大学の運営費交付金や私学の助成金が減らされています。少子化の影響はあります。国の財政が厳しいのもたしかでしょう。しかし、防衛費を倍増するよりも教育予算を倍増したほうが国は栄えるというのが普通の考え方ではないでしょうか。教育は国力の源泉です。そういうことをわかっていない人がいます。

 ――研究や教育をしやすい環境があるとは言いにくい状況です。

 ◆大学は民間のほかのセクターに先駆けて非正規化が進みました。研究や教育を3年や5年に細分化できるのかということです。

 今、大学は予算を減らされているために、研究資金は外部資金をとれと言われます。外部資金はほとんどが時限です。東大の教養学部などでも外部資金の講義があります。すると同じ講義であっても、資金をどこが出しているかによって講師が変わるのです。国立大学でもそんなことをやっているのです。研究室でも何年かたつとすっかりメンバーが入れ替わってしまうなどということも起きています。学問の持続可能性が根こそぎにされています。

 ◇社会に誤ったメッセージを送らない

 ――大学がそんなふうだと世の中はどうなってしまうのでしょう。

 ◆成人したばかりの学生が大学で学んだときに、職員は非正規ばかり、教員もみな年限付き、非常勤が当たり前。そんな場所で4年、あるいは6年を過ごした人が社会に出て行くと、それが当たり前だよね、と考えるようになってしまいかねません。そんな人たちが会社で人事課長や人事部長になった時、どう行動するのでしょうか。

 こんな状況のなかでは、大学人は社会に誤ったメッセージを送らないようにしなければならないというのは同僚とも学生ともよく話します。

 ――どう闘いますか。

 ◆非常勤講師の問題では、東京にある国立・公立大学の組合で作る東京地区大学教職員組合協議会(都大教)の枠組みで助け合うことをやろうとしています。

 非正規の人が大学を移っても、おなじ枠組みがあれば継続して助け合うことができます。枠組みを大きくしてみんなで交渉しなければ、成り立たない状況でもあります。

 そうしなければ経営側に対抗できません。企業別、大学別に細分化するほど、対抗する手段を自分で縛り、狭くしてしまいます。これは出だしの第一歩です。(政治プレミア)