なぜサッカーの試合で「幻のゴール」が相次いでいるのか…「ビデオ判定」を導入したらジャッジの98%が覆った本当の理由

AI要約

多くのスポーツでビデオ判定が導入されているが、ビデオでの判定も常に正確とは限らない。サッカーのビデオ判定では、判定が覆る可能性が大きいとされている。

遠藤航のオフサイド判定を例に挙げて、VARによる判定が過度に変更される問題について言及されている。

サッカーにおけるVARの仕組みや役割について詳細に説明されている。

多くのスポーツで、誤審を減らすためのビデオ判定の導入が進んでいる。だが映像で確認すれば常に正しい判定がくだされるとは限らない。東京大学大学院で行動経済学を研究する今泉拓氏は「サッカーの試合でビデオ判定(オンフィールドレビュー)を行うと、98%の確率で最初の判定が覆るというデータがある。審判が自分を疑いながら再確認するため、認知バイアスが生まれやすくなるからだ」という――。

 ※本稿は、今泉拓『行動経済学が勝敗を支配する 世界的アスリートも“つい”やってしまう不合理な選択』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

■野球とサッカーのビデオ判定では判定が覆る確率が大きく異なる

 サッカーと野球のビデオ判定では、判定が覆る確率が大きく異なることが知られています。覆る可能性が極めて高いのはどちらでしょう?

 答えは(2)のサッカーです。サッカーのビデオ判定(オンフィールドレビュー)では、主審が映像をみて最終判断を決めます。一方、野球(メジャー)のビデオ判定では、別のスタッフが最終判断を決めます。サッカーでは自身の判断を疑いの目で再確認することで、判定を覆す可能性があります。同じ現象でも疑いのフレームでみることで判断が変わるという、1種のフレーミング効果について確認しましょう。

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【POINT】

・サッカーのビデオ判定システム(VAR)では、判定に重大なミスの可能性がある場合、審判がビデオを再確認することがある(OFR)。

・OFRで判定が覆る確率は9割以上である。野球やアメフトのビデオ判定が5割程度であることと比較すると、OFRは判定が覆りやすいといえる。

・OFRは野球やアメフトと違い、審判が自身の判定を再確認する。疑いのフレームで映像をみるため、判定を覆しやすいと考えられる。

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■VARでリヴァプール遠藤の走路妨害がオフサイドに

 2023年の8月、サッカー日本代表としても活躍する遠藤航は、イングランドの超ビッグクラブであるリヴァプールに移籍しました。チームの心臓として大車輪の活躍をみせた遠藤は、イングランド国内クラブのトーナメント戦であるカラバオカップ(EFLカップ)の優勝にも貢献しました。

 そのカラバオカップの決勝で、リヴァプールにとって不可解な判定がありました。

 試合は60分、リヴァプールはセットプレーから主将のファン・ダイクがヘディングでネットを揺らしました。ゴールのように思えましたが、このプレーにビデオ判定をするVAR(ビデオアシスタントレフェリー)が介入。ゴール直前、オフサイドポジションにいた遠藤が相手のディフェンダーの走路を妨害した疑いで、主審は試合映像を再確認(OFR:オンフィールドレビュー)しました。結果、遠藤がプレーに関与したとしてオフサイドに。ゴールは取り消しとなりました。

 このような走路を妨害するプレーはよく行なわれますし、ボールに触っていない遠藤がオフサイドになることにも違和感があり、ゴールを取り消すことはやりすぎなのではないかという声が相次ぎました。

 試合は結局、延長後半に主将のファン・ダイクがヘディングでネットを再度揺らし、リヴァプールが優勝。優勝できたからよかったものの、もしこれで優勝を逃そうものなら、疑惑の判定として後世まで語り継がれる判定変更になったかもしれません。

 もちろん、VARによって誤審が減ることは好ましいことです。

 しかし、この遠藤のオフサイドのように、VAR(厳密にはOFR)によって判定が不当に覆りすぎているのではないか、という問題が知られています。この判定変更をフレーミング効果の視点から考えてみましょう。

■VARでも最終判定を下すのはあくまで主審

 サッカーにはフィールドにいる審判員とは別に、VARという映像を見ながらフィールドの審判をサポートする役割の審判員がいます。

 VARはすべてのプレーに介入するわけではありません。

 「得点」「PK」「退場」「警告の人間違い」の4つのプレーにおいて明白な間違いや見逃された重大な事象があるときのみ、VARは介入をします(③)。この明白な間違いというのは、10人中8人以上が反対するような場面を意味するので、覚えておいてください。

 VAR の介入方法は2つあります。主審の主観的な判断が必要な場合(例:タックルの強さ)は、OFR(オンフィールドレビュー)といって主審がモニターで再確認します。主観的判断が不要な場合は、VARのみで検討します(④)。以上のプロセスを経て、主審が最終判定を下します。

 VARで重要なのは、あくまで最終判定を下すのはVARではなく主審であることです。OFRで映像を再確認したときに、主審は必ずしも判定を覆す必要はありません。サッカーの主審は1試合のなかで判定の基準が一致することが求められます。VARの助言が自分の基準と一致しないと判断したら、判定を変更しなくてよいのです。