手術なし性別変更、外観要件に「正当性」 当事者の身体状況を考慮し判断

AI要約

広島高裁は手術なしで男性から女性への戸籍上の性別変更を認める決定を下した。決定は確定しているが、今後も制度に関する議論が続く見通し。

性同一性障害特例法の外観要件に焦点を当てた高裁の判断や、医学的視点の変化を踏まえて、手術要件に疑問を投げかけた。

今回のケースでは、手術を受けていないが身体の女性化を継続しており、外観要件を満たしているとして性別変更が認められた。

手術なし性別変更、外観要件に「正当性」 当事者の身体状況を考慮し判断

手術なしで戸籍上の性別を男性から女性に変更すると認めた10日の広島高裁決定。性同一性障害特例法の要件のうち「変更後の性器部分に似た外観を持つ」(外観要件)とする規定の目的は社会の混乱を避けるためだとして是認しつつ、当事者の身体状況を勘案して外観要件を満たすと判断した。ただ、高裁決定は確定するが対象は当事者に限られ、手術なしでの性別変更に不安を訴える声もあり、今後も制度を巡る曲折が予想される。

同法は性別変更について、2人以上の医師から性同一性障害の診断を受けた上で①18歳以上②婚姻していない③未成年の子がいない④生殖機能がない(生殖不能要件)⑤外観要件―の全てを満たす必要があるとする。

①~③の証明は容易だが、生殖不能要件と外観要件は手術が必要となるケースが多いとされ、合わせて「手術要件」と呼ばれる。生殖不能要件については「違憲で無効」とした昨年10月の最高裁決定により、残す争点は外観要件に絞られていた。

この日の広島高裁決定はまず、外観要件が設けられた目的を検討した。外観要件を満たさない人が性別変更すると、公衆浴場などで混乱が生じかねず、要件はそれを回避する目的があると指摘。「自己の意思に反して異性の性器を見せられて羞恥心や恐怖心、嫌悪感を抱かされることのない利益を保護しようとしたもの」として正当性を認めた。

ただ、同時に着目したのが性同一性障害を巡る医学の変化だ。決定によると、平成15年の同法制定当時は、外観要件を満たすには性別適合手術が必要とされていたが、現在では手術の必要性は「患者ごとに異なる」との見解が一般的という。

このため、要件に該当させるには常に手術が必要とする解釈は「手術を甘受するか性別変更を断念するかの二者択一を迫り、過剰な制約を課す」とし、「違憲の疑いがあると言わざるを得ない」と言及した。

一方で、手術の有無にとらわれず、他者から見て、実際の身体と変更後の性別に「特段の疑問を感じないような状態」であれば、外観要件に合致するとの見方も示した。

こうした判断を基に今回のケースを精査。当事者は手術こそしていないが、継続的にホルモン療法を受け、医師が身体の女性化を認めていた。このため、外観要件に反する状況はないとして、性別の変更が肯定されると結論付けた。(野々山暢)