「赤字になってからリストラしても遅すぎる」黒字なのに“リストラを止めない企業”の思惑

AI要約

大手企業が進める「黒字リストラ」の動機や背景を考察。後ろ向きと前向きの黒字リストラの違いも解説。

企業の黒字リストラが増加する背景として、厳しい経営状況下での人件費削減や将来の環境変化への対応が挙げられる。

日本のリストラの歴史から、バブル崩壊後に大手企業がリストラを進めるようになった経緯も紹介。

「赤字になってからリストラしても遅すぎる」黒字なのに“リストラを止めない企業”の思惑

 資生堂やオムロンなど近年、大手企業が進めるのが「黒字リストラ」。儲かっているのになぜ社員の首を切る? そして黒字リストラの先にあるものとは……。経営コンサルタントの日沖健氏の分析を前後編に分けて紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

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 決算が黒字なのに早期希望退職を募集する「黒字リストラ」。昨年あたりから多くの有力企業が大規模な黒字リストラを実施しており、今年の募集人数は、過去最高を大きく更新する見込みです。今回は、企業が黒字リストラに突き進む理由と今後の展開について考えてみましょう。

 まず確認しておきたいのは、一口に黒字リストラといっても、動機が「後ろ向き」のものと、「前向き」のものがあるということです。

 後ろ向きの黒字リストラというのは、従来からよくあるリストラの延長です。経営状態が厳しくなった企業が、人件費負担を軽減するために中高年社員を中心に早期希望退職を募集するものです。

 FA機器大手のオムロンは、主力の中国市場で極度の販売不振で、2024年3月期の見通しを2度下方修正した上、2000人の早期希望退職の募集を行いました。苦境を脱するための後ろ向きの黒字リストラといえます。同様のことを資生堂・住友化学・イトーヨーカ堂も実施しています。

 一方、前向きの黒字リストラというのは、経営状態が厳しくなっているわけではないのに、将来の環境変化に備えて事業構造を改革するために、先手を打ってリストラを実施するものです。

 ソニーグループ傘下のソニー・インタラクティブエンタテイメント(SIE)は、世界で約900人の人員削減をすると発表しました。SIEは前年に過去最高の売上高を計上するなど業績は堅調で、構造改革のための前向きの黒字リストラと言えます。

 日本では昭和の時代まで、基本的に「リストラはご法度」で、会社が倒産の瀬戸際に追い込まれた際の最終手段でした。ところが、バブル崩壊後の1990年代後半、日立製作所・富士通といった電機メーカーなどが大規模なリストラをするようになりました。

 私事ですが、筆者が勤務していた日本石油(現ENEOS)は、1999年に同社で初めて早期希望退職を募集しました。三菱石油と合併し余剰人員が発生したためですが、当時の人事担当役員は責任を感じて自ら辞職しました。当時はまだ「リストラはご法度」という考え方が強く残っていたのです。