押し寄せるインバウンド、足りない人手…コロナ禍の影響が尾を引く屋形船や旅館・ホテル業の苦悶

AI要約

コロナ禍が収束し、東京都内では再びインバウンドが増加し、観光業が回復している一方で、労働者不足が深刻化している。

屋形船運営会社では過去の感染拡大で従業員が大幅に離職し、人手不足のために船の運航を制限せざるを得ない状況にある。

都内企業全体でも正社員の不足が増加傾向にあり、特に旅館・ホテル業界では需要はあるものの、取引先の影響で業績に影響を受けている。

 コロナ禍が収束し、東京都内各地には再びインバウンド(訪日外国人客)が押し寄せるようになり、かつてのにぎわいを取り戻している。しかし、労働の現場はコロナ禍の影響がいまだ尾を引き、深刻な人手不足に悩まされている。

 6月上旬の夕方、東京・品川の桟橋。外国人客で満員になった屋形船が岸壁を離れると、明かりの消えた船が2隻、ぽつんと取り残された。「もっと従業員がいれば全ての船を動かせるのに……」。屋形船運営会社「船清(ふなせい)」の女将(おかみ)、伊東陽子さん(71)はそうこぼした。

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年2月、船清の屋形船でクラスター(感染集団)の発生が判明。「感染を広げた」とやり玉に挙げられ、休業に追い込まれた。給料をカットするほかなく、その後の1年間で従業員46人のうち17人が会社を去った。

 コロナ禍が収まり、インバウンドを中心に客足は回復したと感じる。だが、かつては一晩で最大280人ほどだった受け入れ客は、今は2割減の220人程度が限界。屋形船を運航する従業員を確保できないためで、コロナ禍前は8隻稼働させていた屋形船を5~6隻しか動かせず、整備費を抑えるため今年に入って1隻を手放した。

 「予約を断らざるを得ない。本当に悔しい」と伊東さんは唇をかむ。屋形船東京都協同組合によると、人手不足は業界全体の問題といい、高橋呂美事務局長は「東京の伝統文化の灯が消えてしまう」と危機感を募らせる。

 帝国データバンクが1月、都内企業約2000社を対象に実施した調査で、正社員が「不足している」と回答した企業は前年同月比2・1ポイント増の55・3%に達した。3年連続で上昇しており、結果を比較できる07年以降で過去最高となった。同社情報統括部の舘岡茉里香さんは「人材の奪い合いは当面続く見通しで、苦境に立たされる中小企業が増える可能性は高い」とみる。

 業種別では、「旅館・ホテル」が最多の90%。屋形船と同様、インバウンド需要は活況だが、コロナ禍で取引先のリネン業者や清掃業者が次々に撤退・縮小に追い込まれた影響で、全ての部屋を稼働させられない事態に陥っているという。