「強制捜査を延期できないか」ー平成事件史:戦後最大の総会屋事件(5) “ガサ”めぐって起きていた水面下のトラブル

AI要約

かつて「総会屋」という裏社会の人々がいた。企業の弱みにつけ込み、株主総会に乗り込んで経営陣を震え上がらせる。毎年、株主総会の直前になると「質問状」を送りつけて、裏側でカネを要求した。

昭和から平成にかけて、たったひとりの「総会屋」が、「第一勧業銀行」から総額「460億円」という巨額のカネを引き出し、それを元手に4大証券の株式を大量に購入。大株主となって「野村証券」や「第一勧銀」の歴代トップらを支配していった戦後最大の総会屋事件を振り返る。のちに捜査は政治家への利益供与、そして大蔵省接待汚職事件に発展したーーー

事態は急展開する。それまで一貫して疑惑を強く否定していた野村証券が、1997年3月6日に突如として利益供与を認めるに至った。しかし、同社は「元常務2人による犯行」で「会社ぐるみではない」と強調した。熊﨑特捜部長は、事件の端緒をつかんだ「SEC」証券取引等監視委員会と合同で、ガサ入れ(強制捜査着手)の方針を固め、当日を迎えた。ところが、直前になって思わぬ「横やり」が入っていたのだ。今だから明かされるトラブルの内幕とは。

「強制捜査を延期できないか」ー平成事件史:戦後最大の総会屋事件(5) “ガサ”めぐって起きていた水面下のトラブル

かつて「総会屋」という裏社会の人々がいた。企業の弱みにつけ込み、株主総会に乗り込んで経営陣を震え上がらせる。毎年、株主総会の直前になると「質問状」を送りつけて、裏側でカネを要求した。

昭和から平成にかけて、たったひとりの「総会屋」が、「第一勧業銀行」から総額「460億円」という巨額のカネを引き出し、それを元手に4大証券の株式を大量に購入。大株主となって「野村証券」や「第一勧銀」の歴代トップらを支配していった戦後最大の総会屋事件を振り返る。のちに捜査は政治家への利益供与、そして大蔵省接待汚職事件に発展したーーー

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事態は急展開する。それまで一貫して疑惑を強く否定していた野村証券が、1997年3月6日に突如として利益供与を認めるに至った。しかし、同社は「元常務2人による犯行」で「会社ぐるみではない」と強調した。熊﨑特捜部長は、事件の端緒をつかんだ「SEC」証券取引等監視委員会と合同で、ガサ入れ(強制捜査着手)の方針を固め、当日を迎えた。ところが、直前になって思わぬ「横やり」が入っていたのだ。今だから明かされるトラブルの内幕とは。

■酒巻社長が引責辞任

「自白会見」から1週間後の1997年3月14日、野村証券は「総会屋」への利益供与の責任をとって、酒巻英雄社長が、引責辞任に追い込まれる。

その数日前には利益供与に直接関わったとして2人の常務の退任を発表していた。同社は「第一次証券スキャンダル」で退任した前任の田淵義久に続いて、社長が2代続けて不祥事で辞任することになった。

酒巻は内部告発者をどう思うかと質問され、こう答えた。

「同じ釜のメシを食った仲間に告発されて残念だ」「まず、私に言ってほしかった・・・」

その酒巻社長が辞任した翌週の3月25日、ついに「SEC」と熊﨑特捜部長率いる東京地検特捜部は合同で、電撃的に東京・日本橋にある野村証券本社への強制捜査に乗り出した。

神田川の支流、日本橋川沿いに建つ7階建て。その景観から「軍艦」ビルと呼ばれ、1階が石張り、2階以上がダークブラウンの外壁、最上部が白塗りという3層になっている。その「世界のノムラ」を象徴する拠点に家宅捜索が入った。