PC教室に関する共同研究の成果を発表――大阪教育大学、マウスコンピューター

AI要約

大阪教育大学とマウスコンピューターが共同研究の成果を発表するセミナーを開催

研究の背景や文部科学省の動向について説明

高性能パソコンを活用した学びの事例や教材作成方法を紹介

VR映像を使用した音楽科授業や理科実験の教材作成例を具体的に紹介

学びの質向上や探求学習の効果を示唆

主体的な学習や教材制作におけるVR映像の利用価値を強調

教育現場でのパソコン教室整備に関する具体的な課題を指摘

PC教室に関する共同研究の成果を発表――大阪教育大学、マウスコンピューター

 大阪教育大学とマウスコンピューターは2024年6月11日、今後のパソコン教室の在り方についての共同研究の成果を発表するセミナーを大阪市内の同大学 天王寺キャンパスで開催した。両者は2024年1月に包括連携協定を締結。パソコン教室を活用した学びや今後のパソコン教室に必要な端末などについて共同で研究した。

 セミナーの冒頭、同大学 学長の岡本幾子氏とマウスコンピューター 常務取締役(2024年6月20日から社長)の軣秀樹氏が登壇し、両者の教育分野での取り組みや包括連携協定の意義などについて語った。

 続いて、今回の共同研究を統括した理事・副学長の鈴木剛氏が、研究の背景を説明した。GIGAスクール構想によって、1人1台の学習用端末の整備が進んだ一方で、校内のパソコン教室を廃止する学校があり、探究学習やSTEAM教育などに支障が出ている例があるという。

 文部科学省は2022年12月に「GIGAスクール構想に基づく1人1台端末環境下でのコンピュータ教室の在り方について」という事務連絡を出し、動画制作など高い処理性能が必要となる学習については、パソコン教室を活用して、生徒が主体的に学べる環境を整えることが重要だと指摘している。さらに文部科学省は2024年度に、全国の約2割に当たる約1000校の高等学校を対象に、各1000万円を補助してICT環境の整備を支援する「高等学校DX加速化推進事業」(DXハイスクール)を進めている。

 鈴木氏はこうしたパソコン教室整備の動きの一方で、教育現場では具体的にどのような仕様のパソコンを整備すればよいのかが分からず、手探りの状態になっていると指摘。パソコン教室の活用事例の調査やパソコンの性能の検証などを実施して、これからのパソコン教室に必要な端末の仕様を明らかにすることを目指したと説明した。

 この後、産官学イノベーション共創センター センター長で理数情報教育系(理数情報部門) 自然科学コース 教授の堀一繁氏が、共同研究の成果を発表した。堀氏はまず、茨城県立竜ヶ崎第一高等学校や佐賀県立致遠館高等学校などへのヒアリング結果を基に、シミュレーションやビッグデータ処理、VR映像の活用、3Dプリンターを生かした探究学習など、高性能なパソコンによる学びの事例を紹介した。

 さらに、5種類の性能の端末を使って、VR教材の編集や動画編集、3Dプリンターの利用などのケースを想定して処理に要する時間などを検証した結果を披露。こうした調査結果から、学習者用端末と高性能な端末を備えるパソコン教室を併用して活用することで、各教科の学びの質の向上や効果的な探求学習を後押しできると指摘した。

 マウスコンピューター 執行役員 第一営業本部 本部長の金子覚氏は、同社の高性能パソコンを導入して授業などに活用している中学校や高等学校の事例、AI対応のパソコンが登場する見通しなどについて紹介。将来への投資という視点での端末選びが重要だと呼びかけた。

 セミナーでは、高性能パソコンで作成できる教材の例として「VR映像による教材」を取り上げ、大阪教育大学が取り組んでいるVR教材の活用事例を、デモを交えて解説した。

 最初に紹介したのは、同大学のシンフォニーオーケストラの演奏を収録したVR教材。オーケストラの演奏を複数カ所からVRカメラで撮影して作成した。児童・生徒は、学習者用端末やVR用ゴーグルなどを利用して、カメラ位置を切り替えながら360度の視点移動が可能なVR映像を視聴できる。VR映像はアルファコードが撮影した。完成した映像は、同社の配信サービス「Blinky」で無料配信している。

 大阪教育大学 産官学イノベーション共創センター 研究員で大阪府の豊中市立第七中学校 教諭(前大阪教育大学附属池田中学校 教諭)の内兼久秀美氏は、大阪教育大学附属池田中学校での実践事例を紹介した。

 内兼久氏は、中学校3年生の音楽科の授業でVR映像を利用した。授業では、チェコのB.スメタナが作曲した「ブルタバ(モルダウ)」の鑑賞にVR映像を用いた。生徒は1人1台の「iPad」とグループに1台のVR用ゴーグルで鑑賞した。

 この曲は、川の流れをテーマとした作品になっている。生徒は川の流れを表現するさまざまな楽器の演奏をVR映像の中から探した。VR映像を活用したことで、生徒が自ら楽器の音色を見つけ出そうとしたり、疑問を基にさらに探求しようとしたりしていたという。

 大阪教育大学附属池田小学校教諭の石光政德氏は、同校の3年生の授業での実践例を紹介した。授業は、ヨハン・シュトラウス1世が作曲した「ラデツキー行進曲」のVR映像を利用した。児童は、VR映像を基にお気に入りの楽器を決めて、演奏から感じたことやその理由を「実況文」にまとめて、ほかの児童に対して発表した。

 VR映像だと、特定の楽器の演奏を拡大して確認することができる。石光氏によると、演奏する様子を視覚的に確認することで、その楽器の音色を捉えやすくなる効果があったという。

 続いて、オーケストラのVR映像の制作や授業実践に指導助言している元大阪教育大学教授の田中龍三氏が、音楽分野での取り組みを総括した。田中氏は、「VR映像は、子供がすごく興味を示す。こうした興味こそが、主体的に学習に取り組む根源になっている」と指摘した。また、VR映像だと子供が気になる楽器を集中的に見ることができるため、個別最適な学びを実現できると語った。

 大阪教育大学 理数情報教育系 教授の串田一雅氏は、理科実験の手順を解説する動画教材をVR映像で作成した事例を紹介した。この教材は同大学の1年生の選択科目「物理科学実験Ⅰ」で使用している。この授業では、中学校理科の「第1分野」や高等学校の「物理基礎」「物理」で扱う「薄い凸レンズの焦点距離測定」「エタノールの密度測定」「等電位線の描画」「RC直列回路の時定数測定」などの理科実験に関する知識や実験手法を学ぶ。

 こうした実験の手順を通常の動画で説明するには、複数の角度から映像を撮影して、編集する必要がある。VR映像で全景を撮影しておけば、学生は自分が見たい方向の映像を確認したり映像の一部を拡大したりといった使い方ができる。

 串田氏によると、動画教材をVR映像にしたことで、教材作成に必要な時間を短縮できたほか、複数の映像を扱う編集技術の習得が不要になるといった効果があったという。