弁護士、記者、捜査員それぞれの「正義」を知りたい 飯塚事件を追った『正義の行方』を刊行した木寺一孝さん

AI要約

1992年に福岡県で起きた飯塚2女児殺害事件で死刑を執行された久間元死刑囚の第2次再審請求審は認められず、再審は困難な状況にある。

事件は小学校1年の女児2人が行方不明となり、30km離れた山中で他殺体として発見されたもので、久間元死刑囚は逮捕・起訴され、死刑が確定し、執行された。

元NHKディレクターの木寺一孝氏が追ったこの事件は多角的な視点から検証され、再審を目指す動きがあり、異例の進展を遂げている。

弁護士、記者、捜査員それぞれの「正義」を知りたい 飯塚事件を追った『正義の行方』を刊行した木寺一孝さん

1992年に福岡県で起きた飯塚2女児殺害事件(以下「飯塚事件」)で死刑を執行された久間三千年(くま・みちとし)元死刑囚(執行時70歳)の遺族が起こした第2次再審請求審で、福岡地裁は6月5日、裁判のやり直し(再審)を認めない決定を出した。もし死刑執行後の再審が認められれば日本初の事例となるが、「開かずの扉」は簡単には開かない。

1992年2月、福岡県飯塚市で小学校1年の女児2人が通学途中に行方不明となり、翌日、約30km離れた山中で他殺体として見つかった。94年に久間元死刑囚が逮捕・起訴され、犯行を否認したまま2006年9月に最高裁で死刑が確定。それから2年後という異例の早さで死刑が執行された。

この事件を追った元NHKディレクター・木寺一孝さんの『正義の行方』(講談社)は、再審を目指す弁護団のほか、事件当時の報道で先行し、その後自社の報道を問い直す連載を行った地元紙・西日本新聞の記者たち、さらに捜査に携わった福岡県警の捜査員らにも取材し、多角的な視点から検証している。2022年にドキュメンタリー番組として放送され、文化庁芸術祭大賞を受賞。そしてこのたび映画版の公開とともに書籍化された。

実は筆者も、久間元死刑囚の逮捕当時は通信社の福岡県警担当記者、福岡地裁での一審判決当時は司法担当記者として事件を取材していた。正直なところ、逮捕当時は久間元死刑囚についてクロに近い印象を持っていた。この事件の3年前にも、近くの小学校1年生女児が行方不明となる事件があり、女児が最後に目撃されたのは久間元死刑囚の自宅だった。そのこともあって、怪しいという先入観を抱いていた。ただ、決定的な証拠がない中で久間元死刑囚を犯人と断定した福岡地裁判決には疑問も持った。

当時、この事件で冤罪の疑いを指摘する声はほとんどなかったと思う。それが死刑執行後の今、約40人の弁護士たちがほぼ手弁当で集まって再審請求弁護団を結成し、新証拠を発掘するなど精力的な活動を行っているという。いったい何が起きているのか。10年以上にわたり取材を続けてきた木寺さんに聞いた。(ジャーナリスト・角谷正樹)