ハイデガーVS道元…哲学と仏教の交差するところに、はじめて立ち現れてきた「真理」とは?(第2回 言語の本質 その2)

AI要約

20世紀最大の哲学者であるハイデガーと、13世紀に曹洞宗を創設した僧、道元についての対話。

二人の考えには意外な親近性があり、言語や存在についての議論が交わることで真理が明らかになる。

ハイデガーの「存在と時間」と道元の「正法眼蔵」についても触れられ、言語を通じた深い探求の重要性が語られる。

ハイデガーVS道元…哲学と仏教の交差するところに、はじめて立ち現れてきた「真理」とは?(第2回 言語の本質 その2)

 「20世紀最大の哲学者」ハイデガーと、13世紀、曹洞宗を開いた僧・道元。

 時代もバックグラウンドも異なる二人ですが、じつは彼らが考えていたことには意外な親近性があったのではないか? 

 哲学と宗教という異なる「探求」の道が一瞬、交わったときに顕らかにされる「真理」とは? 

 ハイデガー哲学の研究者・轟孝夫と曹洞宗の老師・南直哉によるスリリングな対話! 

 南直哉(以下、南):これは僕が大学1年のときですが、真夏の東京の四畳半一間でこっちに『存在と時間』、こっちに『正法眼蔵』と並べてひと月ずっーと読んでたら、神経衰弱みたいになって、オヤジとオフクロが長野から出てきたことがあったんです(笑)。

 暑いから上半身裸で読んでいた。外から見えているんですね。で、早稲田の学生だというけれど、学校に行くのを見たことがない、本当に早稲田の学生かと大家が近所から言われたと。それで、叔母から通報されたオヤジとオフクロが出てきて大家に「どうもお世話になってます」と挨拶したら、「あなたの息子さんは本当に学生ですか、ご近所では得体の知れない人って言われてますよ」って言われたという(笑)。

 そのころから読んでいたんです。だって『正法眼蔵』の、偉いお坊さんが書いた本を読んでも訳わかんないわけですよ。その中にあってハイデガーがここで問題にしているのは、「存在と時間と言語」の問題じゃないかと思ったんです。

 轟孝夫(以下、轟):それはそうです。

 南:やっぱりそうですか! 

 轟:「存在」を語るという、これまでの言語観とは違う言語観だから、言語論の解体もするわけです。

 南:だから、とてつもないことだと思うんです。人間が実存するという時の決定的な契機は、やっぱり時間とか、言葉とか存在することそのものでしょう? だから『存在と時間』は言語に対する議論・感覚に視点を取って読まないと、何か決定的なことを取り落とす。

 でもね、やっぱり、それはそうだと思うんです。途中で執筆をやめたということは、本人がこの言語体系では無理だという・・・・・・。

 轟:それははっきりとありました。

 南:中期から後期で言語自体を取り上げて論じた論文はあるのですか? 

 轟:中・後期の言語論としては、後期だと有名なのは『言葉への途上』という論集があります。詩作品を手引きとして言葉の本質を考えるというものです。また中期には、ヘルダリーンについての講義を始めます。「詩の言葉にこそ存在の真理が現れている」というあれです。

 南:道元禅師にも、ハイデガーと同じように、「何かを言う」ということは、言い間違えることなんだという感覚があったと思うんです。

 轟:それがまさしく、老師がおっしゃっていた「修証一致」ですよね。「その都度、語る」というそのこと自体が「それをあらしめる」営みだから、それはずっと続けざるを得ない。いったん明らかなったから、それで終わりという話ではない。

 南:だから、前回触れた道得(どうて)に関して、「道得を道得するとき、不道得を不動するなり」というのが、言語を駆動させる最大の駆動力なんだと思うのです。これはよく言われることですが、また僕も若いころからさんざん言われてきたのですが、「お前みたいに理屈を言うのは駄目だ。座ればわかるんだ」と言うでしょう? でも、何がわかるんだって(笑)。

 轟:その「何が」が問題なんですよね。

 南:じゃあ座って何かわかったか言ってみろって(笑)、もう、喉元まで出かかったのを我慢した。で、これじゃ駄目だ、自前でやるしかないなと思った。それでここまで偏った人生になっちゃったんですよ(笑)。

 ――:座っただけではやっぱりわからないんですか? 

 南:わかりっこないじゃないですか! (笑)。

 ちゃあんと書いてあるんです。「道得を道得するとき、不道得を不動するなり」、言えることはちゃんと言ってくれてるんです。問題なのは、言えることを言ったとしても、実は言い得ていないということを、不道得、「言えないことが立ち上がる」ことだということを決して忘れちゃ駄目なんだということなんです。

 たいていの人は、言った瞬間に忘れちゃうんですよねー。「これでいい」みたいになっちゃって(笑)。