1回限りの「定額減税」に早くも延長論が…経済合理性を無視した「与党の政治的思惑」

AI要約

定額減税の延長論が浮上しており、政治的背景と経済の動向が交錯している。

現行の定額減税が家計支援を意図しているが、効果が疑問視されている状況。

政治の流れや減税の複雑な仕組みから、解散や国政選挙の考え方が変化している。

1回限りの「定額減税」に早くも延長論が…経済合理性を無視した「与党の政治的思惑」

 1回限りのはずだった定額減税の延長論が早くも出てきている。減税の効果が疑問視される中、9月の総裁選や都知事選の国政選挙化など政治的動きが重なっており、状況は流動的だ。

 政府は物価高対策として所得税と住民税の一定額を減税する定額減税を6月から実施している。所得税については3万円、住民税については1万円が、6月以降の給与などから差し引かれる。住民税非課税世帯については給付が行われることになっており、すでに実施されている3万円と合わせると10万円が配られる見込みだ。

 このところ激しい物価上昇で、国民生活は苦しくなっている。今回の減税は家計を支援し、消費の低迷を防ぐ目的で行われたが、多くの人が認識しているように、背景には衆院解散や自民党の総裁選など政治的思惑が絡んでいる。

 岸田文雄首相は当初、6月の解散を目論んでいたといわれる。4月に実施された賃上げに加え、6月の定額減税によって家計にゆとりが生まれて国民の好感度が上昇。これを材料に選挙に臨むというシナリオであった。

 確かに4月の春闘では例年にない水準の賃上げが実現したものの、従業員数で全体の7割を占める中小企業の社員には十分にその恩恵がいきわたっておらず、しかも、これまで続けてきた電気代・ガス代の補助は5月に終了となり、6月以降、光熱費が急騰することがほぼ確実となっている。

 加えて、足元では円安が進んでおり、すでに多くの商品が再値上げを表明している。岸田政権が当初、考えていたように家計は改善していない。さらに言えば、定額減税の仕組みが複雑であり、国民が効果を実感できないという問題も指摘されている。

 所得税については6月以降、減税分がなくなるまで税額から差し引かれ、住民税については6月分の住民税が一旦ゼロとなり、減税後の税額を11等分した金額を毎月徴収するというかなり複雑な形態となった。給付金のように、明確に金額がわかる形でお金を受け取れるわけではなく、給与明細をよく見ないと効果を実感しにくいというのが現実だろう。

 政府も気にしているのか、企業に対して減税額を給与明細に明記するよう求めたものの、逆に上から目線であるとして批判を受ける結果となってしまった。

 こうした状況から、6月の解散は難しいというのが大方の見方となっており、総裁選を先に実施して、その後、解散する可能性が高くなってきた。総選挙に関しては以前から小池百合子東京都知事の国政転出が取り沙汰されていたものの、衆院の補選において自民党が連敗したことや、小池百合子都知事が推薦した候補が惨敗したこともあり、小池氏の国政転出も完全に吹き飛んでしまった。

 小池氏は都知事選に再出馬せざるを得なくなり、その都知事選には立憲民主党の蓮舫氏が殴り込みをかける状況となっており、都知事選は総選挙の前哨戦という位置付けにならざるを得ない。すべてのシナリオが狂う中、与党内から出てきたのが定額減税の延長論である。