諫早湾干拓開門問題、国が支払った漁業者側への制裁金12億円の返還求めず

AI要約

国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防開門問題で、農林水産省は支払った制裁金の返還を求めない方針を示した。

漁業者側が開門を求め、裁判により10年に開門が命じられたが、国は遵守せず制裁金の支払いが始まった。

漁業者側と農水省が話し合いを行い、解決策を模索する一方、漁業被害や赤潮による不満も明らかになった。

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)の潮受け堤防排水門の開門問題を巡り、農林水産省は1日、開門を命じた2010年の確定判決に従わなかったため、原告の漁業者側に支払った制裁金について返還を求めない考えを明らかにした。23年の最高裁の決定で効力がなくなった確定判決を前提に支払われた約12億円の制裁金について、国の判断が焦点となっていた。

 漁業者は事業の影響で漁獲量が減ったとして開門を求め、提訴した。10年に福岡高裁が開門を命じ、国の上告断念で判決が確定したが、国は開門に応じず、制裁金の支払いが14年6月から始まった。18年7月の福岡高裁判決で、開門を命じた10年の確定判決の「無効化」と、支払い停止が命じられた。最高裁も23年3月、「無効」とする決定を出した。

 農水省の担当者は1日に長崎県雲仙市で開いた説明会で、「国としては間接強制金(制裁金)の返還を求めることは考えていないし、今後、返還請求訴訟を提起することも考えていない」と明言した。

 制裁金は、民事執行法に基づく措置。判決で命じられた義務を守らない場合に、一定の金額を支払わせることで心理的圧迫を加え、義務の履行を促す。漁業者側に支払われた制裁金は当初1日49万円だったが、途中で90万円に増額され、総額は12億3030万円に上った。

 説明会は、非開門を前提に有明海再生を目指すとした農相談話(2023年3月)の趣旨や漁業振興策を伝える目的で行われ、漁業者17人と弁護団のメンバーが出席した。国が非開門を前提とした話し合いでの解決を提案する中、漁業者側は前提を付けない協議を求め、足踏み状態が続いていたため、まずは国の考えを示す場が設けられた。

 農水省の担当者は、今後の話し合いに参加する条件として、昨年3月の最高裁の決定を受けて出された農相談話に賛同するよう要請。「開門請求権は放棄していただきたい」と求めた。漁業者側は「赤潮が発生し、漁業被害が出ている。誠意をもって解決してほしい」などと主張し、漁場改善に向けた取り組みの成果が見えないことに不満をあらわにした。