就活や待機児童、配属など、身の回りのさまざまなミスマッチを解消する「マッチング理論」とは

AI要約

マッチング理論は、異なる対象間で最適な組み合わせを見つけるための数学的理論であり、社会のさまざまな場面で応用されている。

選好性を持つ個人や組織間でのマッチングの難しさや重要性を説明し、アルゴリズムを使用して最適なマッチングを実現する方法について述べられている。

マーケットデザインとマッチング理論の関連性や応用例について言及し、社会的課題への効果的な対応方法が提案されている。

「マッチング理論」とは、「人と人」や「人とモノ・サービス」など異なる二種類の対象内で、最適な組み合わせを見つけるための数学的理論のこと。1962年に米国のカリフォルニア大学 ロサンゼルス校 名誉教授のロイド・シャプレー氏らが基礎をつくり、その後、ハーバード大学教授のアルビン・ロス教授が応用発展させました。現在、社会のさまざまな場面で活用されており、二人は2012年ノーベル経済学賞を受賞しています。ロス氏の教え子にあたる東京大学教授の小島武仁氏もマッチング理論の世界的な研究者として知られています。

「二種類の対象の中で、最適な組み合わせを見つける」。こう聞いただけではピンとこないかもしれませんが、実は世の中は「マッチング問題」であふれています。「就職活動」は企業と学生のマッチング、「配属」は部門と従業員のマッチング、「結婚」は結婚したい二人のマッチング。マッチング理論が適用できるマーケットは数多く存在しているのです。

マッチング理論では、「選好(せんこう)」という各人の好みや希望順位がマッチングの難易度を上げています。例えば、就職先を探している学生は、入社できればどこでもいいわけではなく、最も行きたい企業はA社、二番目に行きたいのはB社といったように、希望順位を持っています。企業側も学生に対して、一番欲しいのはXさん、二番目に欲しいのはYさんなどと「選好」を持ちます。

それぞれが選好性を持つ中で、どのような組み合わせをつくるか。限られた資源をどう分配するか。全員が100%満足しなくても、全体の満足感が最大化する着地点を目指すのがマッチング理論です。選好をデータ化し、アルゴリズムを用いてマッチングの良しあしを評価し、「良い」マッチングを実現するにはどうすればよいかを研究します。

では、なぜマッチング理論は、ノーベル賞を受賞したのでしょうか。それは、最適な配置ができていない社会課題に対して、マッチング理論が「マーケットデザイン」という分野を切り開いた点が画期的だったからです。

マーケットデザインは、人々にとって望ましい結果を得るために、どのような制度・ルールをデザインするかを考える学問。個人が社会全体にとって望ましい行動をおのずととってくれる仕組みを作り出します。社会で問題が起きたとき、差配をした「人」に批判が集まりがちなところを「構造・仕組み」に目を向け、より多くの人の希望が最大限かなう社会市場自体を設計します。

マーケットデザインの実践として、前出の小島氏は山形市とともに、待機児童プロジェクトに取り組みました。マッチング理論をベースとしたアルゴリズムを実装し検証したところ、待機児童が60%減るという試算が出たといいます。手作業のマッチングなら数週間はかかりますが、コンピューターなら一瞬でマッチングが可能。マンパワーの削減につながり、正確性も増します。

公的領域とマーケットデザインは親和性が高く、保育園やワクチン配布、学校選択のほか、組織内人事にも活用できます。適材適所の組織をつくる上でも、人事担当者が注目すべき理論です。