農中が再度資本増強へ、繰り返す「逃げ遅れ」-巨額資産が足かせに

AI要約

農林中央金庫が1兆2000億円の資本増強計画を明らかに

資金調達の背景には、損失計上を受けた運用商品の問題があり、外国債券を売却して資産入れ替えを実施

市場運用資産残高が巨額でポートフォリオ再構築の遅さが市場影響を受けるとの指摘もある

農中が再度資本増強へ、繰り返す「逃げ遅れ」-巨額資産が足かせに

(ブルームバーグ): 1兆2000億円の資本増強計画を明らかにした農林中央金庫。15年前にも傘下の金融機関から1兆9000億円を調達していた。引き金となったのはともに巨額の損失計上。原因となった運用商品は異なるものの、どちらも「逃げ遅れ」が原因の一つという共通点がある。

奥和登理事長は22日の会見で、資本増強は資産ポートフォリオ見直しのためと説明し、農業協同組合(JA)などの出資者と協議していることを明らかにした。低収益の外国債券を中心に売却して資産を入れ替える。債券売却に伴う損失などで今期の純損益は5000億円超の赤字に陥るという。

決算資料によると、農林中金の2023年度の有価証券評価損は1兆7698億円。内訳は債券で2兆1923億円、クレジット等で1644億円と、5869億円の株式含み益を軽く吹き飛ばす計算だ。

東洋大学の野崎浩成教授は、農林中金の決断の遅さは市場運用資産残高が56兆円と巨額なため「ポートフォリオ再構築の市場影響が大きいことが一因では」と指摘する。メガバンクなどと比べ、特に5年超の債券などの保有残高が多く、中長期ゾーンでの存在感の大きさが動きにくさにつながったと推測する。

一方で、野崎氏は世界的な金利上昇傾向が顕著になった後も「若干だが残高を増やしている点は理解に苦しむ」とも述べた。24年3月末の債券保有残高は前年同期比18%増の31兆3000億円、クレジット等投資は8.8%増の23兆5000億円だった。

損切りの決断遅く

同じく大手機関投資家の生命保険会社などは、米国で金利が上昇(価格は下落)し始めた22年度初めごろには米国債の売却を開始していた。海外金利の上昇は外債(外貨)投資の関連コストも押し上げた。農林中金では、損切りの決断が遅れたことが、損失を拡大させた。

09年の資本増強はリーマン危機による市場の混乱で保有する証券化商品の価値下落が原因だったが、同商品の危険性が認識されだして以降も残高を増やしたことが疑問視された。市場環境は異なるものの、「逃げ遅れ」が繰り返された形だ。