KYOJO CUP 2024 開幕戦|チーム数も一気に増え、参加ドライバーは28人!|2024年5月12日リポート

AI要約

2024年のKYOJO CUPが開幕し、28人のドライバーが参加している。

KYOJO CUPは女性ドライバーの参加資格を持ち、世界唯一の女子レースとして位置づけられている。

レースの世界で女性ドライバーの存在が増えつつあり、KYOJOもレベルアップし、新人ドライバーの実力が伸びている。

KYOJO CUP 2024 開幕戦|チーム数も一気に増え、参加ドライバーは28人!|2024年5月12日リポート

2024年のKYOJO CUPがついに開幕。今年は28人ものドライバーが参加  「KYOJOが盛り上がっている」という声を聞くようになった。2017年の開始以来、KYOJOのレースであるKYOJO CUPには多くの女性ドライバーが参戦してきたが、まだ一般的に周知されているとは言えない状況だ。

 ル・マン24時間レースにおける日本人初の総合優勝者である関谷正徳が提唱したインタープロト、そしてこのKYOJOは、マシンをほぼイコールコンデションとして、ドライバーの腕を競う競技としてスタート。現在もそのコンセプトは変わらない。

 ただ、KYOJOは参加資格が女性となっており、公式レースとして世界唯一のレースである(2024年5月時点)。オーガナイザーという立場にある関谷は、このレースの位置付けを女子レースの最高峰としており、世界中すべてのレーサーになりたい女性が憧れるクラスとして君臨させることを目論んでいる。一番近い例としては女子プロゴルフがあげられる。世界中の人が米国や欧州の大会に参加、日本国内女子プロも世界でのポイントランキング上位数名には権利が与えられ、最近は10名以上の選手が全英、全米オープンへの参加資格を得ている。こういった女子ゴルフを見て「男子ゴルフの方が上であり、女子は男子とゴルフで戦うべきだ」などという人はいないだろう。

 レースの世界は今まで男性中心だった。他のスポーツに比べて危険度が高いことが理由のひとつだが、そこまでレースをやってみたいという女性が多くなかったことも理由の一つだろう。ただ、近年、若い女性を中心にクルマ好き、レース好きが多い。その潜在数は若い男性より多いのではないと思う。

 KYOJOは、F1に並ぶトップカテゴリーであり、それが周知されるには、KYOJOのレベルアップ、チーム、スポンサー、ファンの協力が必要な状況だ。

 そうしたKYOJOを取り巻く状況ではあるが、選手のレベルアップとスポンサーの協力は近年突出してきていると言える。

 豊作だった2023年新人ドライバーに対し、開幕戦まで不安があった2024年新人の8人  2023年シーズンは、全日本F3選手権での優勝経験を持つ三浦愛と2019年のKYOJO CUPでデビューウィンを果たし、2022年のチャンピオンである翁長実希の2人の戦いと言って良いものだった。スタートからフィニッシュまで常に2人がトップ争いし、4戦中2勝ずつを分け合う互角の戦い。コーナリングの魔術師である翁長に対して、レース展開の上手さがわずかに優った三浦がシーズンを制した。

 2023年に選手のレベルの引き上げたKYOJOは、2024年はスポンサーを数多く獲得。優勝賞金などが軒並みアップし、インタープロトでの賞金を上回ることになった。さらにレース自体も全4戦から全6戦となり、特に第2戦と第3戦はスーパーフォーミュラーと共催で、その来場者収入も見込めることに。しかも2024年のスーパーフォミュラーは野田樹潤参戦による大フィーバー中で、レース界は女性で成り立っていると言ってもいいような状態にある。使用するサーキットは6戦ともに富士スピードウェイだ。

 チーム数も一気に増え、参加ドライバーは28人。2017年のKYOJO CUP開幕戦は13台だったため、わずか7年で2倍以上に急成長。関谷は「数こそ力なり」と言うが、カーレースの縮小が相継ぐ中で、参加ドライバーが急激に増加しているKYOJOは、多くのレース関係者が注目するレースとなっているのである。ただ、問題はレベルだった。

 今回、数多くの新規参加チームがある中で、もっとも話題を集めたのがグッドスマイルレーシング(以下グッスマ)で間違いはないだろう。グッスマ独自オーディションで選ばれた岡本悠希がドライバーとなり、監督にGTドライバーの片岡龍也、アンバサダーとしてレースクイーン大賞受賞経験のあるレーシングミクサポーターズの荒井つかさが就任。話題性豊富な陣容であることはもちろん、そのチームとしての完成度は初年度から誰もが疑いようのないものだ。

 グッスマ同様に痛車仕様のVITAで参戦する清水愛、前田琴未、新規チームから参加する元エンドレスレディーの金井宥希、北海道から参戦の関あゆみ、大学の自動車部出身でミスユニバース準優勝の経験を持つ及川紗利亜、KYOJOに憧れ続け、ついにシートを手に入れた山口心愛、早稲田大学自動車部出身の小林眞緒、4歳からレースをはじめ、カートで実力を発揮した16歳の佐藤こころ。こうした8人の新人が参加することになったが、そのドライビングテクニックはどれほどのものか不安があった。

 2023年は開幕戦でいきなりポールポジションを奪った「スーパー高校生」富下李央菜や86レースなどにも参加する20歳の佐々木藍咲、日本語はたどたどしいが走りは精密なバートンハナなど最初から実力を伴った新人が多かったが、あまりにも未経験者が多い2024年の新人。しかし、その心配は無用だった。さすがにトップを争う新人はいなかったが、2023年より格段とレベルの上がったKYOJO各チームのドライバーについて行けているのである。

 ストレートのスピードvsコーナリング。コンセプトの違うトップ2チームの戦い  2024年開幕戦は昨年の優勝者である三浦愛の不在で始まった。彼女は自身のチームである「チームM」の監督専任となり、自身に変わるドライバーとして2023年に総合3位となった斉藤愛未を召喚。斉藤の元のチームは、チームスポンサーとして名前が残ることになった。2023年の1位と3位がタッグを組んだ形で、2024年の優勝候補と目される翁長実希を追撃しようという構図だ。そこに実力者である下野璃央、平川亮を兄に持つ平川真子が追う。

 2024年のKYOJOはトップを狙うチームほど「ストレートでのスピードアップ」に重きを置いている。KYOJO CUP共通マシンであるVITAはエンジンパワーが非力で、イコールコンデションを保つために改造範囲が狭いため、アドバンテージを取りにくい。そのためレース中、もしくはタイムアタック中は多くの選手がスリップストリームを多用してタイムを稼ぐ。逆にいうと富士スピードウェイの特徴のひとつでもある長いメインスタンドのストレートでどれだけスリップの恩恵を受けるかが勝利のポイントとなる。このような理由からKYOJO CUPレース中のメインスタンド前のストレートは、マシンが一直線に連なるのだ。

 ストレートでのスピードアップのための改良のポイントは数カ所。シートの位置を下げる、車高の調整、ウイングの調整などなど。これからをテスト時に繰り返しチェックして最高速を探るのだが、KYOJOに参加する多くのドライバーはテストはおろか練習時間も限られている。その中でチームMは斉藤だけでなく三浦もドライビングしてマシンを熟成。同じく翁長もシート位置などの調整を行うが、彼女の場合は圧倒的なコーナリングスピードが武器であり、これを阻害するわけにはいかない。できることが限られている中でトップ2チームは試行錯誤を重ねながらのシーズンインとなった。

 「コンセプトの勝負になると思います」と翁長。直線重視で圧倒的な速さを持つ斉藤とコーナリング重視の翁長。その中で三浦は冷静に第三のドライバーの存在に注目していた。下野である。「下野選手は実力者なので前に出てくると思っていました」と三浦。レースは1分58秒704でポールポジションを取った斉藤、1分58秒784で2位の翁長、1分59秒043で3位の下野の三つ巴の戦いとなった。先に前に出たのは翁長。それを追う斉藤だったが、早い段階でスリップから抜け出しトップに立つ。「実は最初の戦略では翁長さんに先行させ、最終週まで追いかける予定でした。ただ、下野さんに一度抜かれたことで戦略を変えることになりました」と斉藤。翁長も「まず下野さんを引き離してから斉藤さんと2人で戦う流れになると考えていました」と言う。どちらにとっても下野は不確定要素だった。斉藤が翁長を抜いたあとはその差を広げ、逆に翁長は下野にプッシュをかけられる。絶対的存在と思われていた翁長だったが、そう簡単ではないことを思い知らされる。

 2023年シーズン第2戦の悔しさを晴らした翁長。見事な戦略、そしてコーナリングで開幕戦を勝利で飾る  1位斉藤、2位翁長、3位下野のまま最終12ラップ目のスタンド前のストレートに突入。ここで翁長が仕掛けると分かっていた斉藤は最後の力を振り絞って驚異的なストレートの伸びをみせる。翁長はそれに付いていけず、スリップにも入れない状態。しかし、1コーナーでブレーキングを遅らせた翁長はオーバー気味のスピードでコーナーに侵入し、斉藤と並ぶ。鋭く多角形を描くようにコーナリングする翁長のラインは他の選手とまったく違う軌跡を描き、左側にいた翁長はそのまま左に軽く曲がるAコーナー(コカコーラ)で前に出る。その後は翁長の独壇場だった。アドバン、ダンロップとコーナーごとに差を広げ、最終的には翁長、斉藤、下野の順でゴールとなった。虎視眈々とパッシングポイントを狙っていた翁長の見事な勝利だった。

 「狙っていましたか?」と聞く記者に対してニヤリとしながら「狙ってました」と答える翁長。2023年の第2戦、わずか0.078差で三浦愛にかわされて優勝を逃した悔しさを晴らしたというべきか。見事な翁長の戦略であり、コーナリングの勝利であった。ポールトゥウィンを狙った斉藤は「(翁長を)抜いたあとに引き離したのですが、そのアドバンテージを少しずつ削られ、最後にやられてしまいました」と悔しそう。タイヤの消耗度は両者とも同じくらいで、8~9週目が限界だったと言う。確かに2台ともマシンはブレ始めていた。下野はその前からブレ始めていたので、この2人とまともに戦うことが、どれだけタイヤを消耗するかが分かる。

 4位に予選4位の平川真子。そしてなんと5位には佐々木藍咲が入る。練習量は全選手の中でも一番と言われるほどクルマ一色の生活を送る彼女は、嬉しいポイントゲットとなった。実は平川をペースメーカーにしていたという佐々木。走りの相性が良い先行ドライバーを見つめることも才能のひとつだ。平川も佐々木もバトルらしいバトルもなかったことからマイペースで走ることができのが大きかったのだろう。ただ、2人とも他車と絡まない、まるで予選のようなレース展開に満足していない様子。2023年は上位を脅かし続けた平川はもちろん、急成長をみせる佐々木も今後は上位3人に割って入ることを狙っていくだろう。

 6位に金本きれい、7位に岩岡万梨恵、そしてバートンハナが安定した走りで8位入賞。ここまでがポイントを獲得。予選タイムも近い6~8位の3人はセカンドグループ内での激しいバトルによって上位から引き離されてしまった。ここから抜け出すのが表彰台への道だ。9位は今回悔しいレースだった富下、10秒ペナルティでポイント圏内から下がってしまった。10位はスピンで落とした順位を鬼の走りで挽回した実力者の永井歩夢。この2人はもっと上位に行けるだけの実力を持っているだけにもったいないレースだった。11位にこちらも実力者の高野理加、12位に成長株の樋渡まい、13位はここ一番の速さを持つ山本龍、14位に新人の関あゆみ、15位の保井舞は最後の直線でスリップから抜け出したが、わずか0.002秒届かなかった。以下、モータージャーナリストでKYOJO皆勤賞の藤島知子、佐藤こころ、出産からの復帰戦となった萩原友美、新人の岡本悠希とのトークショーでの絡みが最高だったおぎねぇ、清水愛、及川紗利亜、小林眞緒、金井宥希、サリー、山口心愛、最後はグッスマの岡本悠希という順位。初参戦の前田琴未は悔しいリタイアとなった。織戸学の娘である織戸茉彩はMAX ORIDOチーム所属となり、昨年までとは見違えるほど速くなったが、マシントラブルで途中リタイア。次戦では中位グループに入ることはもちろん、練習次第では上位を狙うことも可能だろう。例年下位常連だったドライバーの成長も著しい。

 上位と下位の実力差から荒れるレースを予想したが、反してクリーンなレース展開。タイム差こそトップと最下位ではベストラップで7秒もの差があるが、周回遅れになることもなく、トップの独走を許すような状況にもならず、レース展開としてはかなり面白いものだ。少なくも一桁順位にいるドライバーすべてに優勝のチャンスはあると言っても良いだろう。

 第二戦は7月20日、第三戦は7月21日とどちらもスーパーフォーミュラーと併催で行われる。ギャラリーが増えれば盛り上がりも期待できる。ぜひ当日は富士スピードウェイに足を運び、彼女たちの素晴らしい走りを実際に見てほしい。そして鋭い眼光で走り終えマシンを降りたあとの彼女たちの楽しげな姿も見てほしい。そのギャップもKYOJOならではの楽しさだ。