プリウス誕生前に「ハイブリッド技術」が存在していた! 誕生の意外な動機をご存じか

AI要約

プリウスの量産化に先駆け、シリーズハイブリッドが実用化された船舶や鉄道機関車の歴史

初期のシリーズハイブリッドは効率向上や大出力エンジンを効率的に利用するために採用された

ディーゼル・エレクトリック推進は今でも米国などで使用され、シリーズハイブリッドの代表例

プリウス誕生前に「ハイブリッド技術」が存在していた! 誕生の意外な動機をご存じか

 世界初の量産ハイブリッド乗用車、プリウスは1997(平成9)年11月に発売され、大きな注目を集めた。ガソリンを燃料とする内燃機関にモーターアシストを併用したハイブリッド機関自体は、2年前の1995年11月にショーモデルとして発表されていた。

 当時、内燃機関と電動モーターの併用に対して「古風だ」と感じた人も少なくなかった。その理由は、ハイブリッド機関が異なる名称であっても、過去に実用化されていたことがあるからだ。過去のハイブリッド機関は、後に「シリーズハイブリッド」と呼ばれるものに相当する。つまり、内燃機関を電動モーターでアシストするパラレルハイブリッドではなく、内燃機関や蒸気タービン機関が発電機を駆動し、その発電した電力でモーターを動かすシステムが特徴だった。

 このタイプの機関が最初に実用化されたのは船舶で、米海軍の戦艦であった。第1次世界大戦中の1915(大正4)年10月に起工され、1918年5月に就役した「ニューメキシコ」がその例だ。

 それまで米海軍の艦船は直結式の蒸気タービンを使用していたが、高速回転が効率的な蒸気タービンに対して、推進プロペラは速度に応じた低速回転が必要で、蒸気タービンの特性を生かせない問題があった。この問題は後に大型の減速ギアボックスを併用することで改善されるが、当時はまだ実用化には至っていなかった。

 そこで導入されたのが、蒸気タービンで発電機を駆動し、その電力でモーターを介してプロペラを動かすタービンエレクトリック駆動だった。この時代にはもちろん、シリーズハイブリッドという用語は存在しなかった。

 タービンエレクトリック駆動は、ニューメキシコ以降に建造された戦艦テネシー、カリフォルニア、コロラド、メリーランド、ウエストバージニアでも採用された。しかし、運用のなかで構造が複雑であることや、被弾して電気系統が損傷すると航行不能になる危険性が高いことが問題視された。さらに、効率のよい減速タービンが実用化されたことで、戦艦での採用は終了した。

 ちなみに、同時期に設計された巡洋戦艦をルーツに持つ米海軍の航空母艦レキシントンとサラトガにもタービンエレクトリック機関が採用されていた。

 その後、シリーズハイブリッドが実用化されたのは、米国でのことだった。広大な鉄道網を持つ米国では、蒸気機関車に代わる高性能な機関車が求められていた1930年代半ば、ゼネラルモーターズの鉄道機関車部門であるEMDが新型の大出力ディーゼルエンジン567型を完成させた。このエンジンは直列6気筒で600hp、V型12気筒で1000hp、さらにV型12気筒では1350hpに達しており、このパワーに対応する機械式トランスミッションは存在しなかった。そこで、EMDは1920年代から気動客車で手掛けていたディーゼル・エレクトリック推進を採用することになった。

 この方式では、エンジンを最も効率的な回転域で運転できるため、燃費がよく、複数の機関車をひとりの機関士で操縦する統括運転も容易だった。EMDが先駆けて開発したディーゼル・エレクトリック推進は、米国での運用に適しており、1950年代以降に大出力に対応するトルクコンバーターが開発されても採用され続けた。現在でも、米国、カナダ、オーストラリアなどで運用されているディーゼル機関車は、ディーゼル・エレクトリック推進、つまりシリーズハイブリッドである。

 初期のシリーズハイブリッドには、戦艦の場合は低速での効率の悪さを改善するため、ディーゼル機関車の場合は大出力のエンジンを効率よく使うためといった、採用目的に違いがあったことに注意が必要である。