セブン買収提案は始まりに過ぎない。ニトリ・日清食品・サンリオも他人事じゃない「怖い理由」

AI要約

セブン&アイ・ホールディングスに対するカナダのコンビニ大手アリマンタシュオン・クシュタールからの買収提案を受けて以降、日本企業を取り巻く環境が急変している。

今後、海外からの日本企業への買収提案が増加する可能性が高く、有名企業もターゲットになり得る。

企業防衛の観点や買収の背景、経営陣の責任について考察する必要がある。

セブン買収提案は始まりに過ぎない。ニトリ・日清食品・サンリオも他人事じゃない「怖い理由」

 セブン&アイ・ホールディングスが、カナダのコンビニ大手アリマンタシュオン・クシュタールから買収提案を受けて以降、日本企業を取り巻く環境は急変しています。残念ながらこの先、海外から日本企業への買収提案は増えそうです。ニトリ、良品計画、日清食品、ヤクルト、サンリオ…日本屈指の有名企業もターゲットになり得るのです。(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)

● セブンへの買収提案は始まりに過ぎない 日本企業はこれから危うくなっていく

 この8月にカナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシュオン・クシュタールがセブン&アイ・ホールディングスに買収提案をしたことが明らかになって以降、日本企業の企業防衛の前提が大きく変わりました。

 この報道以降、私も業界関係者と議論をして情報も集まってきました。

 ひとことで言えばこの先、日本企業への海外からの買収提案は増えそうです。この記事で日本企業がどのように危うくなっているのかを3つのポイントで整理したいと思います。

● ポイント1 ターゲットが「優良企業」に変わった

 ここ数年、上場企業に物言う株主が増加しています。これまでの買収では含み資産を持っている割に業績がぱっとせず株価が低い企業が狙われやすい傾向がありました。日本の上場企業にはPBR(株価純資産倍率)が1を大きく下回る会社が多いからです。

 理論的にはPBRが0.5の会社をファンドが手に入れれば、その日限りで事業を停止して会社を清算することでファンドは投資額を倍に増やすことができます。なにしろ株価が0.5に対してその会社の純資産が1.0あるのです。

 実際には上場企業の株式を経営権が手に入るところまで買い占めるのは難しいので、ファンドはこういった会社の株をある程度まで買い進めて、

「資産を切り売りして配当を増やせ」

 と株主総会で経営陣をゆさぶるわけです。

 まあこのレベルの攻防はハゲタカ的なファンドとそれほど有能ではない経営陣との戦いになるので、日本経済全体への影響としては重要な話ではありません。

 問題は、今回のアリマンタシュオン・クシュタールのセブン買収のようなケースです。

● セブンの買収提案が起こった背景は? 経営陣にも責任はある

 セブン&アイ・ホールディングスは日本を代表する優良企業ですが、それでも海外の投資家の中には「自分が経営したらもっとうまく成長させることができる」と考えるひとたちが結構な数いらっしゃいます。

 セブン・イレブンという非常に強いビジネスモデルを持っていることで、投資家としては中国・アジアにもっと速く大きく店舗展開を行えるはずだという期待があります。いまごろはアジア全体の小売り市場において支配的なポジションに届いているはずなのに、実体はそうなっていない。ここに海外の投資家の不満があります。

 これは、実はセブンの経営陣にも責任があります。

 セブンの経営陣は昨年は西武百貨店池袋店がヨドバシカメラになることを想定した西武・そごう株の売却にかなりのエネルギーを注いでいました。そして今年はイトーヨーカドーの大量閉店に力をいれています。

 情報が限定的にしか入ってこない海外の投資家から見れば「重要度の低いアジェンダに時間を使いすぎ」「自分が意思決定したほうが成長が早くなる」と考える人がたくさん出てくるわけです。

 ただセブンの場合は時価総額が直近で5.7兆円ありますから、それを買収できる企業はほとんどありません。今回のアリマンタシュオン・クシュタールの提案をうまくやり過ごせばそれ以降は経営陣は安心できることでしょう。