万博、農業展示はある? 「紀州の梅干し」世界に発信 〝食の知恵〟も注目

AI要約

2025年大阪・関西万博にて和歌山県産の梅を取り上げた展示準備が進行中。

万博では、放送作家の小山薫堂氏が「EARTH MART(アースマート)」という展示を企画し、青梅の塩漬けを展示する予定。

梅を提供するのは紀州梅の会で、万博閉幕後には梅干しを産地で保管し、来場者と一緒に食べるイベントも計画されている。

万博、農業展示はある? 「紀州の梅干し」世界に発信 〝食の知恵〟も注目

 国や大阪府、経済界が総力を挙げる2025年大阪・関西万博を巡って、「空飛ぶクルマ」などのニュースは出てくるが、農業関連の展示はどうなるのか。本紙「農家の特報班」が調べていくと、和歌山県産の梅に脚光を当てた展示の準備が進んでいることが分かった。記者が詳細を探った。

 記者が万博関連の情報を探す中で見つけたのは、8人のプロデューサーがそれぞれ展示内容を企画する「シグネチャーパビリオン」。「いのち輝く未来社会をデザインする」がテーマだという。

 「誰かしら食や農業に着目するのではないか」と公開されている情報をチェックしていくと、放送作家の小山薫堂氏による「EARTH MART(アースマート)」が目に付いた。資料には「空想のスーパーマーケット」の文字。「ここなら食や農業に関連するかもしれない」と小山氏に取材を申し込み、コンタクトを取ることができた。

 オンラインで対面した小山氏は「食を通じて命を考える」と展示の趣旨を切り出した。柱の一つに「栄養価や伝統など世界に共有したい日本の食の知恵・技術」を挙げた。

 具体的に何をするのか尋ねると、小山氏は「産地直送の青梅をパビリオンの中で塩漬けにする」と明かした。世界の最新技術が並ぶ万博会場の一画に、梅を漬けたたるが並ぶ──。想像もしなかった話が飛び出した。

 梅を提供するのは国内屈指の梅産地、和歌山県の「紀州梅の会」だという。さらに詳しく取材した。

 「万博会場に訪れる世界の人々に、日本古来の保存技術を知ってもらいたい」。自身が手がけるパビリオン「EARTH MART(アースマート)」で、青梅の塩漬けを企画する小山薫堂氏は、狙いをそう打ち明けた。

 パビリオン館内の展示の一つに漬けだるを並べる予定。来場者に引換券を渡し、万博閉幕から数十年後に、和歌山県で食べるイベントを開く構想もある。

 「世界に共有したい日本の食材、食の知恵・技術」として小山氏らが選んだのは米粉や餅、豆乳など25品目。その中には梅干しもある。「自然の力で長期保存を可能にする梅干しなど、日本の食文化は、世界に広がり始めた持続可能な開発目標(SDGs)にも貢献できる」と小山氏は確信する。

    ◇

 原料を提供する産地は、どんな準備を進めているのか。小山氏から聞いた「紀州梅の会」に取材するため、記者はまず、事務局の和歌山県の田辺市役所に問い合わせた。

 JA紀州とJA紀南、地元農家、6市町などでつくる「紀州梅の会」は、梅のPRなどを担う組織。事務局の田辺市によると、万博向けに約1トンを出荷するという。

 市は「来年4月の万博開幕後、梅の収穫時期に合わせて会場内に運び入れ、たるで塩漬けにする」(梅振興室)と説明。具体的な内容が固まりつつあった。塩漬けができたら産地で引き取り、天日干しにして梅干しを完成させるという。

    ◇

 この計画を梅農家はどう受け止めているか。田辺市で梅を約4・5ヘクタールで栽培し、JA紀南梅部会の梅干分科会長を務める那須一令さん(54)を訪ね、話を聞いた。

 「世界規模の万博でPRできるのは、産地にとって大きなチャンス」と那須さんは胸を高鳴らせる。ひょう害や不作に苦しむ産地にとって「吉報だ」と受け止める。今春、市から話があり「二つ返事で申し出を受けた」と振り返る。

 万博閉幕から数十年後、産地で保管していたたるから梅干しを取り出して、来場者らと食べるというタイムカプセルのような小山氏の構想に、那須さんは「申し込んだ本人の思い出にもなるし、子や孫に『万博の時の梅干しだよ』とプレゼントするのも夢がある」と期待を膨らませる。

 「会場には最高の梅を届ける。伝統的な製法で作った紀州の梅干しを後世につなぐ一助になってほしい」と願う。

(島津爽穂)