文化財候補「昭和の名建築」を次々解体する愚かさ…大正11年創建「虎に翼」ロケ地には8万人来館

AI要約

名古屋の建築物が100年の歴史を持ち、NHK朝ドラ「虎に翼」のロケ地として注目を集める市政資料館が過去最多の来館者数を記録している。

建物は元は名古屋地方・高等裁判所であり、戦前の東京地裁としても使用され、主人公のモデルである三淵嘉子さんもこの場所で働いていた。

かつて消滅の危機に瀕した市政資料館は保存され、現在は市の公文書館として親しまれている。

文化財候補「昭和の名建築」を次々解体する愚かさ…大正11年創建「虎に翼」ロケ地には8万人来館

 昭和の「寅」はフーテン、令和は女性裁判官──。100年前から時代の変化を見てきた名古屋の建築物が人気だ。1922(大正11)年創建の市政資料館。外観はネオ・バロック様式のレンガ造りで、NHK朝ドラ「虎に翼」のロケ地になるや、来館者が急増した。

 その数は放送開始の4月から今月20日までに8万444人。過去最多だった前年同期の約2.5倍だ。記者が訪れた平日昼も人はひっきりなし。「今までにない反響です」と資料館の担当者はこう語る。

「当初は特に告知をしていませんでしたが、ロケ地と聞きつけた方が次々と現れ、朝ドラの影響力を思い知りました」

 もともとは名古屋地方・高等裁判所。ドラマでは戦前の東京編で東京地裁として使われた。主人公の寅子たちが中央階段を行き来するシーンを覚えている視聴者も多いはずだ。

「主人公のモデル、女性初の裁判官の三淵嘉子さんも52年から3年5カ月、この場所で働いていました。来館者の要望に応え、今月25日まで三淵さんの企画展を開催。ドラマを機に建物の魅力を知って欲しい」(担当者)

 かつて消滅の危機に陥っていた。79年に裁判所が新庁舎に移転。取り壊しをして公園にする計画が浮上すると、市民から「残して欲しい」との声が上がり、市職員も保存に動き、84年には国の重要文化財に指定。3年半の復元工事を経て89年から市の公文書館として今なお姿をとどめている。

 創建時はまさか「100年先」に朝ドラの“聖地”と化すとは、予想だにしなかっただろう。

「建築物は時間と共に文化的価値が増し、その価値はお金では買えません。まだ明治・大正期の建物の価値は認められていますが、昭和の高度成長期の名建築を保存する動きは鈍い。都内でも芦原義信氏のソニービル(66年)、黒川紀章氏の中銀カプセルタワービル(72年)、林昌二氏の中野サンプラザ(73年)などが消え、香川にある丹下健三氏の船の体育館(64年)も解体が決まっています。建築後100年なら残し、50~60年の“若い芽”を摘むのは、将来の文化財候補を破壊するも同然。未来へのおごりです」(建築エコノミスト・森山高至氏)

 寅さんがいた昭和の名建築を「覚えているかな? 知らねえけれど」100年先も残す。それが令和の課題である。