売り出せ わが街の一押し 岐阜市 柳ケ瀬の大衆文化伝える ロイヤル劇場 「昭和」作品がめじろ押し CFで新たなファン開拓も

AI要約

柳ケ瀬商店街に位置する名画座「ロイヤル劇場」は、昭和時代の映画文化を今に伝える貴重な存在である。

同劇場は35ミリフィルムを使用し、昭和の名作を週替わりで上映しており、昔ながらの雰囲気が漂う。

劇場運営には地元有志の協力もあり、クラウドファンディングを活用して存続を図る取り組みも行われている。

売り出せ わが街の一押し 岐阜市 柳ケ瀬の大衆文化伝える ロイヤル劇場 「昭和」作品がめじろ押し CFで新たなファン開拓も

 歌手・美川憲一さんのヒット曲「柳ヶ瀬ブルース」で知られる岐阜市柳ケ瀬商店街の中心に「劇場通り」と呼ばれる場所がある。岐阜県最大の盛り場だった柳ケ瀬にはかつて、多くの映画館や芝居小屋が軒を連ね、大衆文化の発信拠点としての役割を担った。その歴史や文化を今に伝えるのが名画座「ロイヤル劇場」だ。地域に支えられながら、柳ケ瀬から大衆文化のともしびを消すまいと奮闘している。(岐阜)

 ロイヤル劇場は、劇場通りからほど近い日ノ出町商店街の一角にある。レトロ感満載の看板やポスターが目を引く35ミリフィルムの映画を上映する名画座として知られる。上映案内を見ると、終戦記念日に合わせた三國連太郎さん出演の「ビルマの竪琴」、8月後半は松田優作さんや舘ひろしさんらが出演する「暴力教室」を上映するなど昭和時代に製作された作品がめじろ押し。入場料金はどの作品も600円均一と、これも昭和のにおいを伝える。

 昭和30年代前半、柳ケ瀬周辺には12軒の映画館があった。当時、映画は最大の娯楽。休日は朝から映画館をはしごする人も多かったという。映画はまさに大衆文化のど真ん中。同劇場も1977年に誕生した映画館の一つだった。

 時代は移ろい郊外型シネコンが主流に。街中の小型映画館は、公開数週間後に上映する2番館などへの転換を余儀なくされた。デジタル化への対応も必須だが映写機材は高価。同劇場は2009年から既存の35ミリフィルムの映写機を用い、「昭和名作シネマ上映会」と称して旧作を週替わりで上映する営業方式を打ち出した。

 心臓部となる2台の映写機にフィルムを前半と後半に分けてセットし、1台目の映写が終わると2台目に自動的に切り替わり、自動で巻き戻す。上映時間に合わせてタイマー設定も可能と省人・省力化を徹底する。年間を通じて現役の全自動映写機はここだけかもしれないとのこと。ただ、設備の老朽化は容赦なく進んでいる。

 柳ケ瀬で営業する映画館は今や同劇場と運営会社が同じ岐阜柳ケ瀬シネックスの2館のみ。長年、劇場運営に携わった岐阜土地興業の磯谷貴彦取締役は「着ぐるみを着たり独自のサービスデーを設けたり、お客さまに喜んでもらえる施策を常に考えていた」と、接客業の原点回帰を提起する。

 柳ケ瀬から大衆文化のともしびを絶やさない。象徴的存在ともいえる同劇場存続のため、磯谷氏や商店街など地元有志も協力。クラウドファンディングを活用して新たなファンを開拓する試みにも挑戦中だ。

 昨年は、同劇場を舞台にした短編映画「ロイヤル劇場の夢」も製作された。ことし7月には、美川憲一さんの「柳ヶ瀬ブルース」をモチーフにした映画(1967年公開)が同劇場で復刻上映され、美川さんも応援に駆け付けた。柳ケ瀬もこの日ばかりは往年のにぎわいを取り戻し、改めて大衆文化の底力を見せつけた。

 柳ケ瀬商店街は7月に岐阜高島屋という大きな求心力を失い、再び転機を迎えている。「しぶとく生きるのよ」。美川さんは柳ケ瀬にエールの言葉を残した。

(第4土曜日に掲載)