海外流出が止まらない中古EV電池。日本は「8兆円の巨大市場」に食らいつけるか

AI要約

中古EV電池のほとんどが海外に流出し、枯渇する貴重な資源のリサイクル市場が注目されている。

日本総研の予測では、日本のEV電池リサイクル市場が2050年に8兆円規模に達するという。

他国ではサーキュラーエコノミー市場が活発化しており、バッテリートレーサビリティも重要視されている。

海外流出が止まらない中古EV電池。日本は「8兆円の巨大市場」に食らいつけるか

中古EV電池のほとんどがEVごと海外に輸出され、貴重な資源が海外流失している──。

一大産業への成長が期待されるEV電池リユース・リサイクルの行方が注目されている。

日本総合研究所は8月22日、日本におけるEV電池のリユース・リサイクル市場について、中古EV販売などの関連市場を含め、2050年に約8兆円規模に達するとの予測を発表した。

「8兆円という数字は、先日岸田首相が言及した2024年のインバウンド消費の市場規模予測と同程度。かなり大きな市場になると言える」

発表を行った日本総研創発戦略センターのシニアコンサルタント、籾山嵩氏はそう指摘した。

EV市場の成長鈍化が指摘される一方で、いま世界的な関心を集めているのが中古EVを含め、EV電池のリユース・リサイクル、いわゆるサーキュラーエコノミー(循環経済)市場の成長だ。

今回の予測では、EV電池のサーキュラーエコノミー市場を「中古EV関連市場」「リユースEV電池関連市場」「EV電池リサイクル関連市場」の3つに分類し、全体として2030年時点で約6000億円、2050年には約8兆円に達すると予測した。

このうち、中古EV販売を除く、リユースEV電池関連市場とEV電池リサイクル関連市場に関しては、2030年に合計1200億円規模、2050年には2兆円を上回る規模に成長すると見込んでいる。

注目は、EV電池のサーキュラーエコノミー市場が形成に伴って、新たな産業創出効果が期待される点だ。

「例えば、シェアリングサービスなどの新しいサービスの創出や電池の品質評価技術などの新たな技術の創出、あるいは循環製品のリースといった既存事業の高機能化も進むといったさまざまな波及効果が考えられる」(籾山氏)

日本総研が日本で初めて将来予測に関する調査を行った背景の一つには、中古EV電池のほとんどが中古EVに搭載されたまま海外に流出している実態がある。

「2023年には約2万台の中古EVが海外に輸出された。(国内での)EVの販売台数は2020年前後に2万台前後で推移していたことからすると、おそらくかなり高い割合で中古EVが海外に流れている」(籾山氏)

このまま中古EVの海外流出に歯止めがかからず、日本にEV電池のサーキュラーエコノミー市場が形成されない場合、将来的にどのような問題が起こるのか。

「レアメタルの確保など資源安全保障の問題が解決されないという課題に加え、8兆円という規模の潜在的な市場が国内から失われるリスクがある。この市場がなくなるかどうかの分岐点に立っている」(籾山氏)

海外では、欧州が規制強化を加速させている。製造から再資源化までのCO2排出量や再生材料使用量の明記などが義務付けられる「電池規制」が2024年8月に施行された。バッテリーパスポートという、バッテリーのトレーサビリティ(追跡可能性)を担保する動きも進んでいる。

EV大国・中国ではすでに、サーキュラーエコノミーの市場が具体的に動き出しているという。

「基本的にはバッテリートレーサビリティがかなり精度の高い状態で担保されている。加えて、バッテリーを特定の事業者に集約するような仕組みも出来上がっている。

中国では、もはや適当に廃棄することができないような強制力を持った政策が実行されており、(サーキュラーエコノミーの)動きがかなり進んでいる印象だ」(籾山氏)