「為末大さんから聞いたカエルの話 そこから考えた必要なバランス感覚とは」ローソン社長・竹増貞信

AI要約

コンビニ百里の道をゆく"は、ローソン社長竹増貞信さんの連載。バランス感覚について考察し、周囲の雑音に惑わされず自分の価値観を貫く姿勢の重要性を示唆。

アスリート為末大さんの話を通じて、諦めずに努力し続けることの重要性が表現され、自己の価値観と周囲のバランスを取ることの必要性が強調されている。

自らの考えや意見をしっかりと持ち、他者とのバランスを気にしつつも、自身の価値観とのバランスを大切にする姿勢が、ダイバーシティーが重視される職場で素晴らしい成果を生み出す可能性を示唆。

「為末大さんから聞いたカエルの話 そこから考えた必要なバランス感覚とは」ローソン社長・竹増貞信

「コンビニ百里の道をゆく」は、54歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。

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「あの人はバランス感覚があるね」。こんな言葉を聞くことがあります。周囲とうまく調整しつつ仕事ができる人。そんなプラス評価につながるイメージでしょうか。しかし、少し違う「バランス感覚」もあると私は思っています。

 陸上男子400メートルハードルで活躍された為末大さんから、こんな話を聞いたことがあります。

 あるとき、穴に2匹のカエルが落ちてしまった。穴はとても越えられないような高さで、2匹は脱出しようと何度も跳びあがった。でもうまくいかない。穴の上のカエルたちは初めのうちは応援していたものの、だんだんと「もう無理だな」と言い始めた。それを聞いた穴の中の1匹のカエルは跳ぶことを諦めてしまいます。結局、穴から脱出できたのは、諦めずに跳び続けたもう1匹のカエルでした。なぜ可能だったか。耳の聞こえないカエルだったのです。

 周囲の雑音に惑わされず、一生懸命に自分の思うことをやり続ければ、ある日、大きな壁も越えられる。アスリートの世界と重ね合わせて、為末さんはこの話をされたのでしょう。「本当に必要なバランス感覚とは」を考えるうえでも大事なことが含まれている話では、と私は思います。

 周囲の人とのバランスをうまく取る、という私たちが思い浮かべる「バランス感覚」。これも大事ではあります。ただ、自分の中に確固たる価値観や信念があり、それが職場の仲間と違うときには、「周囲とのバランス」を気にしすぎず、自分の考えや意見をしっかりと仲間とぶつけ合うこと。これも非常に大事です。

 つまり、「周囲のことを気にするバランス感覚」を持ちすぎないこと。「自分の中の価値観とのバランス」を大事にすること。その姿勢が、ダイバーシティーが重視される職場で化学反応を起こし、さらに素晴らしいものが生まれるのではと考えています。

◎竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長

※AERA 2024年8月26日号