国鉄民営化の公約「またがり利用 = 不便にならない」は結局、守られたのか? 1986年自民党「意見広告」を問う

AI要約

自民党が国鉄分割民営化後の懸案事項に関する公約を出した。

筆者がJR定期夜行列車を見に行った際に過去と現在の列車の変化を振り返った。

近年のJR各社間の直通列車の廃止や新規路線の開業について紹介された。

国鉄民営化の公約「またがり利用 = 不便にならない」は結局、守られたのか? 1986年自民党「意見広告」を問う

 国鉄分割民営化の前年の1986(昭和61)年5月22日、自民党は全国紙に意見広告を出した。それは、国鉄分割民営化後の懸案事項に関して不利益がないことを「公約」したものであった。意見広告に明記された公約は次の六つである。

●民営分割 ご期待ください。

・全国画一からローカル優先のサービスに徹します。

・明るく、親切な窓口に変身します。

・楽しい旅行をつぎつぎと企画します。

●民営分割 ご安心ください。

・会社間をまたがっても乗りかえもなく、不便になりません。運賃も高くなりません。

・ブルートレインなど長距離列車もなくなりません。

・ローカル線(特定地方交通線以外)もなくなりません。

 連載4回目となる本稿では、「会社間をまたがっても乗りかえもなく、不便になりません。運賃も高くなりません。」について再考する。果たしてこの公約は守られているのだろうか。

 筆者(大塚良治、経営学者)は本稿を執筆するに当たって、ある平日の22時に近い時間に、JR唯一の定期夜行列車「サンライズ出雲・瀬戸」(以下、サンライズEXP。定期列車の運行区間:東京~出雲市・高松)を見るため、東京駅9番線に向かった。

 同じホームの10番線では東北本線から入線した普通列車が、勤め帰りなどの人たちを乗せて東海道本線方面へ出発していく。平日21時台の東京発東海道本線普通列車の行き先はJR東日本管内の品川、平塚、国府津、小田原、熱海、および伊東であるが、JR東海管内の沼津行きも1本設定されている(2024年8月1日時点)。

 JR発足初月の『JTB時刻表1987年4月号』を見ると、東京15時33分発浜松・山北行きの普通列車が目に入った。このほかにも東京発浜松行き、静岡行き、御殿場行き、伊豆急下田行きの普通列車も確認できたが、本稿執筆時では、これらの行き先の普通列車は東京駅から姿を消している。

 JR東日本は、2001(平成13)年12月1日に東北本線・高崎線と東海道本線・横須賀線を新宿経由で結ぶ運行(通称・湘南新宿ライン)を始め、2015年3月14日には東北本線・高崎線・常磐線と東海道本線を東京経由で結ぶ運行(通称・上野東京ライン)を開始した。

 JR東日本は発足に際して、新幹線鉄道施設を保有していた新幹線鉄道保有機構から受託した東北新幹線東京~上野間の工事を進めるなかで、同新幹線延伸工事にともない撤去された同区間の回送線の復活を企図して、同新幹線の上部に在来線(後の東北縦貫線)の施設を設置できるよう、新幹線施設の一部に準備を施していた(「上野東京ラインの建設に用いられた新技術及び施工技術」『JR EAST Technical Review』No.52-SUMMER.2015)。東北縦貫線開業により、北関東エリアの栃木県・群馬県と中部地方の静岡県を結ぶ普通列車が日常的に運行されるようになった。

 他方、2004年10月16日のダイヤ改正では、東海道本線の湯河原方面と函南方面にまたがる直通列車が、53本から20本へ削減された。同日以降、東京発着東海道本線普通列車の西端は沼津となり、JR東海エリアへの乗り入れは熱海~沼津間に縮小された(2012年3月17日ダイヤ改正前日まで存続した、373系特急車両を使用した東京~静岡間の普通列車を除く)。

 2005年10月1日のダイヤ改正では、JR西日本とJR九州を直通する普通列車が廃止された。2012年3月17日ダイヤ改正では、JR東日本東海道本線とJR東海御殿場線の直通列車が廃止されたが、小田急小田原線新宿発着の特急「あさぎり」(現・ふじさん)は存続している。さらに2016年3月26日ダイヤ改正で、JR西日本車両によるJR東海管内大垣行き普通列車が廃止された。