大物アーティストが所有した「ディーノ246GTS」いくらで落札された? 「有名人の愛車」という付加価値で車両価格は上昇するのか?

AI要約

シェールが所有していた「ディーノ246GTS」が、オンラインオークションに出品され、56万8000ドルで落札された。

「ディーノ246GTS」はフェラーリが初のミッドシップ2シータースポーツカーとして製造され、フィアットとの提携により誕生した。

シェールは音楽業界で成功し、「ディーノ246GTS」を新車で購入するほどの成功を収めたアーティストである。

大物アーティストが所有した「ディーノ246GTS」いくらで落札された? 「有名人の愛車」という付加価値で車両価格は上昇するのか?

 1965年に歌手としてデビューし、1982年には俳優業をスタート。グラミー賞やアカデミー賞主演女優賞なども獲得した大スターといえば、アメリカの大物アーティスト・シェールです。

 そんなシェールがかつて所有していた「ディーノ246GTS」が、Bring A Trailorというアメリカのオンラインオークションに出品されました。果たしていくらで落札価格されたのでしょうか?

「ディーノ246GTS」の歴史は、フェラーリが製造した初のミッドシップ2シータースポーツカーである前身の「ディーノ206GT」までさかのぼります。

 そもそもこのシリーズが誕生した背景には、フェラーリがF2シリーズへの参戦を継続するため、という目的がありました。

 1965年、FIAの国際スポーツ委員会は、1967年シーズンから適用される新規則を策定。F2マシンのエンジンは6気筒以下で、かつ12か月以内に500台以上が生産された市販車由来のユニットであることが求められたのです。

 当時、フェラーリの規模は小さかったことから、新しいレギュレーションを満たすためにフィアットと手を組むことになりました。

 そして生まれたエンジンは、フェラーリの創業者であるエンツォ・フェラーリの息子で、1956年にこの世を去ったアルフレード・フェラーリ(愛称ディーノ)が病床で発想したアイデアを、ビットリオ・ヤーノが具現したものといわれています。そのためこのエンジンは、“ディーノV6”という通称で知られています。

 なお、レース用エンジンの市販化に対応した低出力化は、フェラーリ社で4気筒エンジンの開発に携わった後にフィアットへと移籍したアウレリオ・ランパルディが担当していました。

“ディーノV6”は、1966年に誕生したフィアット「ディーノ クーペ/スパイダー」に初搭載。フェラーリでは、1967年誕生の「ディーノ206GT」に搭載されました。

 ちなみに、フィアット、フェラーリともに全く同じエンジンが搭載されていましたが、最高出力はフェラーリの方が高めに謳われていました。真相は、SAE(ドイツ規格)、DIN(アメリカ規格)による表記違いだったそうですが……。

 とはいえ、これによりフェラーリは、F2参戦継続のための条件をクリアしたのでした。

 ポルシェ「911」、メルセデス・ベンツ「SL」、ジャガー「Eタイプ」などのライバル車を目指せというフィアットからの進言もあって、1969年、“ディーノV6”は排気量を2リッターから2.4リッターへと拡大。それまでフィアットの工場で生産されていた「ディーノ クーペ/スパイダー」は、フェラーリのマラネロ工場にて「ディーノ246GT/246GTS」とともに生産されることになったそうです。前者は1973年まで、後者は1974年まで生産が継続されました。

●“偉大なるアーティストが所有した”という付加価値とは?

 そんな「ディーノ246GTS」を所有していたのが、冒頭でご紹介した大物アーティストのシェールでした。

 筆者がシェールの存在を知ったきっかけは、『If I could turn back time』という一曲。当時、音楽専門番組『MTV』で流れたこの曲のミュージックビデオは、今でも鮮明に覚えています。

 というのも、軍艦の甲板に当時43歳のシェールがハイレグ姿で登場。ギタリストのひとりは彼女の息子だったと記憶しています。実にインパクトのあるミュージックビデオでした。

 シェールが購入した「ディーノ246GTS」は、1972年6月にラインオフした車両で、“ティーポE”と呼ばれる後期型です。

 1946年生まれのシェールは16歳で高校を中退し、アーティストになるべくハリウッドを目指しました。

 そこで出会ったのが、音楽関連の仕事に就いていたソニー・ボノ。彼の自宅の家政婦をやるということで“住み込み”始め……2年後には結婚することになりました。

 ソニーは当初、シェールをソロデビューさせようと尽力していましたが、シェールはあがり症だったことから、ふたりでステージに立つことを希望。やがてソニー&シェールとして瞬く間にスターダムにのし上がりました。

 1965年の『I got you babe』など世界的なヒット曲を連発。気づけば弱冠26歳で「ディーノ246GTS」を新車で購入できるまでに至ったわけです。

 当該車両は、レーシングドライバーのジョン・コード(かつて存在したコード社の創業一族)が1974年に手に入れ、同年に建築家のドナルド・ウィリアム・マクドナルド氏に販売されました。

 39年後の2013年には、ドライバーソース・ファイン・モーターカーズというクルマ屋さんがマクドナルド氏から購入し、匿名オーナーに販売されてレストアが施されています。

 そして2022年には同社が買い戻し、ジョン・ガンダーソン氏なる新しいオーナーの元で相当な額を費やして整備が施された、という記録が残っています。

 そのオドメーターは6万5000マイル(約10万4600km)を表示していますが、写真を見る限り、5000マイルといわれても驚かないクオリティが保たれています。

 結局、当該車両は、56万8000ドル(約8350万円)という高価で落札されました。

「ディーノ246」にしては走行距離のかさんだ車両ながら、とにかくきれいな状態が維持されており、しかも、レジェンド・アーティストであるシェールが所有していたという付加価値が価格に反映されたのでしょう。